想像の小部屋

なんか色々まとめたり書いたり。

2016-07-01から1ヶ月間の記事一覧

ステルス性涙

清潔な病室の中で、蝉の声を窓越しに聞きながら、青い空を彼は眺めていた。 ベッドの上で読んだ本は、片脇の机にこれでもかと積み上げられ、彼の暇だった時間を顕著に表している。 がらり、とドアが開いた。 「美春。」 呼ばれた彼は微笑をたたえて扉の前に立…

東塔里

突然だが、母は父と違い占いが好きだった。 特に好きな占いはタロット占い。まあ、好きだと言っても盲信するわけじゃない。ゲーム感覚で、時々ふっと占ってもらうだけだ。それに行動が左右されることなどない。 ところで、俺の…いや、私とさせてもらおう。私…

アルバム

「・・・。」 相手にばれないようにそっと物陰から落ち込んでいる弟を観察した。 先ほど親父様に叱られていたのはよく知っている。 「・・・うー・・・ん?」 弟とは話す機会があまり多くない。俺の教育が多忙なせい、ともいう。 でも、こうもぐすぐす泣いているとこ…

正反対な初恋

ずっと私の初恋は兄様に奪われたと思っていた。兄様は雄大で、強く、美しく、そして心から優しいお人だ。話しかけていただけると心は踊るし、触れていただけると日が沈むまで機嫌を良くした。 慈雨の神。まさにと言わんばかりに兄様はよく弱いものに気付き、…

おめでとうとは言えない

『織姫様と彦星様は、年に一度、あの天の川で出会うのよ』 今時天の川なんて本当に見えやしない。美しい天の川どころか、織姫様と彦星様すら見えることは少ない。 もちろん田舎に行けば話は別だろう。遠くから来た友人には数人毎年見ていたと興奮気味に話す…

石水杏の恋文

貴方への想いはしんしんと降り積もり、夜に白く輝いて、そっと溶かされるのを待っています。朝の日差し、麗らかな春を告げる太陽。そうやって土が顔を出した時、きっと私は歩き出せます。 貴方に手を取られ、サクサクと踏みしめる荒れた土を、これから共にふ…