先輩後輩
「先輩って、今までその…、手にかけた?、人とかって覚えてるんすか。」
不意に彼女がそう問いかけてきた。
いつもこんな僕にもよく笑いかけてくれて、しっかりコミュニケーションをとってくれる彼女は、今日は頭に包帯を巻いている。
戦や訓練でできた傷ではないと思う、なにせ今日は月曜日で、金曜日にその傷はなかった。
珍しく彼女が静かで、元気がなさそうで、こんな話題を持ちかけてくるというのに、きっと影響しているのだろうと思った。
「……覚えてない、人の方が多い。」
「覚えてる人もいるんですか?」
「……うん、強かった人、とか。」
素直に答えると彼女はまた顔を伏せてしまう。僕は彼女を悲しませるような返事をしてしまったらしい。
「……私、人を殺せないんです。」
「……。」
そんなこと知っている。
「だから真先輩に真っ先に見捨てられても仕方ないなって思ってたんです。」
「……うん。」
確かに僕は、戦えなくなった負傷兵を彼女の目の前で見捨ててきた。
「私は、」
「私は、出来損ないですか、真先輩。」
そんなこと。
「……。軍人としては、……そうかもしれない。」
知っている、そんなこと。僕も彼女も、よく知っている。
「…たぶん、秋月だからって、特別扱いして……助けたりとか、しないと思う。」
彼女が僕を見る。不安そうな顔だなと思った。珍しい顔だとも思った。
「……でも、それは、戦場での話。」
あまり、そんな顔を見たくないと、僕は思った。
「……ここは、戦場じゃないから。…秋月だから、僕は……力になりたい、から。…どうして悲しいのか、教えて。」
彼女は甘え下手だと前に実が言っていた。
だから僕が甘やかすのは難しいかもしれない。
それでも、僕は、この子の先輩だから。
この子が寂しくないように、傍にいてあげられたら、と。
そう思う。
「…ふふ、真先輩がなんか先輩っぽい。」
彼女の微笑みが、僕は割とすきだった。