無人の館にご注意を #14
Side.結奈
悠々と地下室のドアを開く兎上さんを見て私は首をかしげた。
絵にかいたような僕様のくせに、周囲の人間を気遣うような意思が見えるような?
気のせいなのだろうか。いや気のせいにするのも失礼な話か?
がそう考えてることなんてつゆ知らず兎上さんはずんずんと階段を下り地下室へと入っていく。
「・・・真先輩。」
ハッキリ言ってあの僕様々野郎が武器持ちなのは不安だ。
頭の良い人だからこの人が大丈夫だと言ってくれるならまだ安心できると、私は真先輩に問いかける。
「あの人、大丈夫なんすか?・・・なんていうか、あの、性格?」
「・・・秋月。君が心配してるのは彼が僕らに本当に協力してくれるかということ?それともあの性格で彼が生きていけるかってこと?」
そう返されてから自分がいかに失礼な質問をしたかがわかった。いや別に彼の性格を全否定してるわけじゃ無い。
「あー、協力してくれるかって方っすね」
「それなら問題ない。どうにも敵軍をここで死なせたくないって言うほどお人好しらしいから。」
いざとなったら怖いって泣き縋れば助けてくれると思う、と真先輩は言った。
私は、期待していた応えを貰ったはずなのになぜか安心感を得られなかった。
「また本棚か・・・。全てどけるのは難しいな。」
兎上さんがとんでもない事を言う。彼に常識がなかったら全てどけていたのだろうと想像して寒気を感じた。
それほど本棚はたくさんあった。大きな本棚が図書館のように列を成して並んでいる。
「壁際のあの2つだけでもどかそう。東、霧野わかってるな?」
「は!?また俺らか!?」
「当たり前だ。まさか女性に・・・いや、石水はいけるか?」
「それは杏の事を女性扱いしてないという認識でいいですか」
会話を聞く限り私にお仕事は回ってこないようだったので、本棚に並んでいる本を軽く見てみる。
どれもこれも難しそうで私にはさっぱり縁のない本だったが少しでも脱出のヒントっぽいものがないかと目を凝らす。
「・・・わっかんないなあ・・・。」
そう言ったところで本棚の動くズズーっという音がした。
ああ、結局動かしたのかと思いながらそっちを見ればまた兎上さんが誇らしげな顔で東さん達に何か言っていた。
また何か見つかったのだろう。
「何が見つかっ・・・ファーーwwwwwww金庫wwwwwwだとwwwwwwすげwwwwwwww」
近づいてみれば、見つかったのは新たな金庫だった。
兎上さんが幸運の女神にでも愛されているのかなんなのか、高確率ですごいものが出てくる。
ここまでくれば笑うしかない。
「またwwwwwww暗証番号式っすかwwwwwwwwここらへんの本棚にはそれのヒントっぽいのはwwwwwなかったっすよwwwwwwwwww」
笑い転げてたら最終的に東さんに落ち着けと促されたので必死に笑いをこらえた。
まあ私が見落としをしたわけでもなく、ヒントはこの部屋には無かった。
ヒントがあったのは一つ部屋を挟んでさらにもう一つ東の部屋だった。
「なんだこの落書き・・・?」
鉄格子の中、東さんが見付けたのは壁に青いクレヨンで幼稚園の子が描いたかのような絵だった。
左に訳の分からない記号、右に串刺し・・・いや、格子の向こうにいる人間?
「・・・下手くそな絵だな」
「ブフォwwwwwwwwwwwwそこじゃwwwwwねえwwwwwwwwww」
兎上さんの感想に思わず噴き出した。
何かのヒントだろうと真剣に考えていたというのになんだこの人の呑気さは。
「にしてもこれ、なんなんだろうな?ただの落書き・・・なわけないよな。」
東さんが真面目に考えているので笑っているのも申し訳ない、と思い笑うのをやめる。
まあ私は少しばかり脳が足りないのでわからないのだが。
一応その絵を眺めはするがさっぱりわからない。なぞなぞは嫌いだ。
そのまま全員が考え込み、しばらくの時がたった。
そして、謎を解いたのは意外にも東さんだった。
鉄格子の外からなら数字に見える、とそう言って。
実際にそれは正解だったので無事に金庫は空き、「別館の鍵」が手に入ったのだった。