ひとりごと
「私さあ、お父さん嫌いだったんだよね。
いっつも帰ってきたらすぐにお母さんのこと一人占めしちゃうの。
幼いころからお父さんが死ぬまでずうっと。
お母さん、お父さんのこと大好きだったの。心が綺麗だとか、笑った顔が最高に可愛いだとか、お母さんを呼ぶ時の声がかっこいいだとか、いっぱい聞いてきたけど。
正直背だって特別高くなかったし、顔だって普通。すごい戦績を持って帰ってるとかめちゃくちゃ頭良いとかそんなこともなかったし。
私にはあんまりお母さんの好きがわかんなかった。まあ優しい人っていうのはわかるかも。気弱だったともいうけど。
でも、お父さんってやっぱりすごかった。
どんなにつらい戦場から帰ってきても、家で笑ってた。乾燥した、いっぱい傷のついたガサガサした手で、私の頭をなでてくれたし、血のにじんだ唇でお母さんの頬にキスをしてた。
残されることって辛い。
今まで全然わかんなかったけど、今になったらよくわかる。
残されること、生きることってしんどい。
でも生きることって素晴らしい。すごく、尊いもので、私の生涯っていうのは、簡単に手放しちゃいけない。
・・・わかってくれないかな。なんでだろ、見渡す限り死にたがりばっかりだよ。
どうして皆、そんなに死にこだわるのかな。
死に方が立派だなんてよりも、生き方が立派なほうがずっといいじゃん?
・・・私だけなのかなこうやって思うの。
でもわかってほしいんだよね。私、皆に死んでほしくないし。
だからお父さんみたいになるの。いっぱい笑って、生きることって尊いんだよって教えるんだ。
・・・笑ってた方が、私も楽。
お母さんだって、戻ってきてくれるかもしれない。
早く呼ばれたいなあ。」