無人の館にご注意を #13
Side.由紀
ノブのなかったドアの先は書斎のような部屋だった。
僕の問いかけに良い返答を返した秋月という少女は中々に素直で使えそうだと好印象を与える。
どうにも僕の存在が気に食わないらしい石水には逆に悪印象を与えておいた。
「・・・よし、東塔里と霧野真。あの本棚を動かせ。」
僕がビッと部屋の奥のほうにある本棚を指さすと指名された二人はきょとんとした顔をした。
「何をしている、早く」
軽く睨んでそう言うと東が不思議そうに僕に尋ねた。
「な、なんで本棚なんか動かすんだ・・・?」
「何故?」
僕は答える。
「僕が本棚の後ろを調べたいと思うからだ。僕はピアノの部屋に入った事があるがあの部屋は本棚の後ろに金庫があったんだぞ?」
ならばこの部屋も例外ではないかもしれない。
「僕は探索に手は抜かない。」
そう言いきると後ろで石水がため息をついたような気がしたが無視を決め込んだ。
早くと促せば今度は霧野が僕に反論する。
「・・・自分でやればいいのに、なんで僕たちに。」
・・どいつもこいつも文句が多い。
「僕にそんな労働で体力を削らせる気か?頭が高いぞ。」
僕は念のためにと武器を持ってきている。そして現時点では僕以外に武器を持っているのは石水だけだというじゃないか。
それならば武器持ちの体力は優先して残すべきだろう。
少し納得いかなさげな顔はしていたが二人とも大人しく僕の言うことに従った。
彼らもそれなりに使えると記憶しておくことにしよう。
本棚がどかされたことで、現れたのはなんとドアだった。
今度はノブもきちんとついている。
「ほらな、調べて損はなかっただろ?」
得意げにそう言って僕は扉を開けた。
そこには鉄格子とその向こうに鍵があった。
僕は鉄格子の中に入って鍵を手に取る。他の連中も続いて鉄格子の中に入ってきたようだった。
「それどこの鍵っすか?」
秋月が僕の手元を覗き込む。鍵には「地下室」と書かれたプレートがついていた。
「地下室なんてあるのか・・。この館広いんだな・・」
東が感想を口にした。確か外から見たときは別館のような物もあったぞと告げればさらに表情を曇らせていた。
その時、勢いよく扉が開いた。
僕の目に鬼が映ると同時に、鬼が足を踏み出したと同時に、僕の耳に鉄格子の扉が勢いよく閉まる音がしたと同時に。
僕は一瞬だけだが、体を硬直させていた。
原因はなんだ?恐怖か?
「・・・・だとしたら、笑い物だな」
小さな声で呟いた言葉は秋月の悲鳴と鬼が鉄格子を揺らす音でかき消された。
「秋月、落ち着け。鉄格子は頑丈であると同時にお前には僕がついている。」
そう言って持っていた鍵を秋月に預け、念のためにサーベルを手にする。
それを見て鉄格子を閉めて以降茫然としていた石水もトンファーを手にした。
だが鬼は鉄格子が開かないとわかると、諦めて部屋を出て行ってしまった。
「・・・外で待ち伏せしてるかも。」
霧野がそう言って 鉄格子から出た。武器も持っていないくせに、待ち伏せの可能性を考慮したうえで最初に部屋を出るのか?
「待て、霧野真。僕が先に部屋を出よう。」
「・・・え?」
当然だ、危ないだろうといえば少し驚いたような顔をして、それからドアの前からどいた。
「僕は他軍だからと簡単に命を無下にしたくないのだ。・・・ましてや、ここは戦場じゃないのだからな」
ほとんど独り言のような、誰にたいして言ったわけではない言葉。
けれど、それに反応して霧野は言った。
「あまり、そういう事を言わないでほしい。戦場でなくともここは、」
―命のやりとりが、行われている場所なのだから。
無表情でそう言った彼の瞳に一瞬だけ。一瞬だけ不安のような迷いが見えたことは気のせいだったのだろうか。
「まあ、僕の」
知ったことではないか、心の内でそう思った。