只今、夢日記
遠ざかっていくあの子の足音がつめたく響いていたのも、ほんの一瞬のあいだで、後に残されたのは静かな静かな空間だけだった。
もう夏も終わってしまった校舎には、こんな時間だと暖かく、名残惜しくなるような黄金の夕日など存在しない。
これから暗くなろうと、圧迫感のあるグレーにのみ満たされたこの場所は、つい昨日まであの子と話していた場所とは程遠かった。
あの子と、話していた場所だった。
名前を呼ぶことも躊躇われてしまって、言ったところで誰にも届くはずないのに、怒られてしまうような気がした。呼ぶ度に、思い浮かべる度に、この心の隙間を埋めてくれていた、そんなあの子の名前なのに。
もう、呼べなくなったのだ。このグレーに埋められてしまった。
ああ、なんてこと。
まだ止まらない涙を、抱え込んだ膝に落として消そうとした。元から頭は良くなかったが、なんて馬鹿なのだろうと本気で自分を呪った。
あの子だけは、ずっと自分を好きでいてくれると、思い込んでいたのだ。
自分があの子のために変わらずとも、この私を、愛してくれると、思い込んでいたのだ。
どうして、何が悪かったのだろう?
世の中なのか、自分なのか。それとも、あの子が?
いいや、あの子が悪いなんて、少しでも思いたくはなかった。だって、私があの子を恨むなんて、到底できない話しだ。
明日になれば、案外いつもの明るい声で名前を呼んでくれたりしないだろうか。
そんな甘えた考えをも飲み込んで私の周りを闇が埋め尽くしていく。
このまま生き埋めになって、死んでしまうのではないだろうかと思ってしまった。
なんだかもう泣き疲れてしまった。
諦めてしまうしかないのかな。
まだ、振り返ってしまう。