無題
兎上由紀とは、頭のいい人間である。
勉学に励むのも勿論だが、頭の回転が早く決断力がある、戦場で有利な頭の良さの持ち主である。
「そこが、あの人を思い出させて嫌いなんです。」
いかにも非情を思わせる利己的な言動や、他人を見下す視線は、その奥底から美しく輝き、曇らないことを数少ない人が、しかし確かに知っている。
「そんなところが、面白くて好きなんだよお」
自らの思想、目標を高く掲げ、空気を震わせる凛とした声が天まで届くこと。そしてその言葉に魂を宿し、決して雨に負けないことなどいかにも彼を構築する特徴である。
「…どうして、あなたばっかりそんなにも。」
鋼というにはあまりに豊かで、まっすぐに澄んだ心が彼には備わり、数多の兵の命を救い、また殺してきた。懇願せず、縋らず、しかしひとりに酔わず。
人間の心というには、純粋に強いそれ。
「期待してるんだよお、君の解答に。その意見に。」
兎上由紀という学生兵が居た。
「「だから、お願い」」
「ふん、馬鹿馬鹿しい。
僕は僕だ。貴様は貴様だろう。」
「だから僕は信じている。当然のことだ。」
「生きると良い。努力すれば見つかるだろう。」
「愚か者め。」