曖昧ライフ曖昧ハート
「・・・俺さ、好きな人、居たんだよね。」
「は?」
綺麗な赤い髪と、それに劣らず美しい瞳を視界の隅に捉えながら幽霊は言った。
当然彼女はわけがわからないというような顔をする。唐突だ。
表情から感情の消えていた幽霊は、少し無理のある笑顔を作って言う。
「好きな子!生きてた時にさあずっと好きだった人居たんだ。結局片思いのまま終わっちゃったんだけどさ。」
「・・・そうか。」
彼女は静かに幽霊の言葉を待つ。彼女は優しい心を持っていた。
幽霊はそんな彼女の優しさに、少し心を痛めながら、それでも言葉を紡ぐ。
「でも死んじゃったあとにさ、俺の指輪その子が持っていってくれたんだ。もしかしたらあの子も俺のこと好きだったのかなーなんてさ。幽霊になってまで期待しちゃって。」
「・・・ああ。」
「でもその子さ、ちょっとしたら恋人できたんだ。黒い髪に、金色の瞳の、すっごい、綺麗な人。」
「・・・ああ。」
「恋人のこと、すっげー好きみたい。すげえ幸せそう。幸せそうに言うんだよ。この指輪は、大切な親友のものだって。」
「・・・・ああ。」
「俺、あの子のことあんなに幸せそうに笑わせてあげられたことなかったなって、思って。」
「・・・・。」
「だから、あんな幸せそうなあの子を俺に見せてくれた、恋人さんがきっとあの子にはぴったりなんだろうなってさ。思って。」
「・・・。」
「俺、諦めたの。片想い。もう死んじゃったし、好きな子作ったって意味ないなって。」
「・・・そうか。」
端整な笑顔だった。無理のある笑顔は影をひそめ、それは作り慣れた自然なものへと変貌している。
言葉に詰まった瞬間にふと、仮面をかぶるように変わるのだ。だが悟られない。周りの人からは。
幽霊は自分の透き通った手越しに地面を見つめる。
「でも実はさ。俺すっごい最低な奴なんだよね。」
「・・・最低?なぜだ。」
彼女は幽霊を見つめる。向こうの景色ではない。彼を。
「結局好きな子、できちゃった。しかもあの子にまだ未練残したまんま。」
彼女は少し驚いたような顔をした。
幽霊は気づかない。
「今好きな子はさ、あんまあの子とは似つかなくって。明るさも全然違うし、見た目の色も対照的。軍だって違うし一緒なことって性別くらい。まああの子はちゃんと女の子じゃないのかもしれないけどさw」
彼女は黙っている。
「・・・今から好きになってももう遅い。触れることもできないし、生涯をともにできるわけでもない。」
「だけど、好きなんだ。最低だろ?」
「こんな曖昧で、不確かな存在だけど。嘘じゃないんだ、気持ちだけはさ。」
幽霊はそう言うと笑顔をやめた。少し不安げな顔で彼女に問いかける。
「・・・そんな話、御法ちゃんはどう思うかなあって。」