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想像の小部屋

なんか色々まとめたり書いたり。

レモンよりもっと甘い香りだったけどね

今から思うと、彼らは惹かれるべくして惹かれあった仲なのかもしれない。…いや、薄々当時からわかっていたのだろう。
僕は我慢をしらないワガママな子供で、幼稚な性格を優しい兄に許してもらっていたのだ。
甘やかされていた、甘えてもらわせていたのだ。それを僕は気付かずに、ただ愚かなことだと知らずに兄を否定し続けていた。
僕こそが認められた、立派な人間なんだとプライドを身につけてしまったのだ。
兄の優秀さに気付いていたからこそ、兄を見下していた。

だから、と言ってしまえばまた兄のせいにしてしまうのだが。
僕は何より兄に負けたくない気持ちで彼に近づいた1面がある。
僕の勝手で兄を怒らせ、悲しませ。なによりも。
彼自身を、僕は傷つけてしまった。
大切にしたかった彼を。自らの手で。
過ちというに他はない。到底僕は、立派な人間などではなかった。

それでも確かに、恋をしていた。

彼がいなくなってしまった後、抜け殻のまま兄は卒業し、居場所の無い家に連れ戻され、僕が学園で最後の1年を楽しんでいた時にはどんな扱いを受けていたのだろう。
僕が家へ戻った時、すっかり成長した兄はトランス家の象徴とも言える魔力の源、赤いその瞳をすっかり覆ってしまっていた。

満月の夜だった。
兄は僕に、明日、家を出るからと告げてくれた。
どうして、僕に?と思いながら、そうとだけ返事をした。
なぜか傷ついたような、申し訳なさそうな、そんな顔をしていた兄は、優しい人だったのだとその時ようやく実感した。
行かないでと、言う権利などもう無かった。
兄が去った後、幼い頃と同じ、しかしくだびれてしまった海賊帽を被ったぬいぐるみが僕に花を持ってきてくれた。
こっそり用意し続けていた、月の精霊の本や資料は兄の手に渡すことも出来ず本棚から姿を消した。

彼らのことだ、きっと出会っている。
また笑いあって、僕の入る隙間などない程に愛しあっている。
そう願うしかない。

ふと仕事で立ち寄った街で甘い香りが鼻腔をくすぐった。
ケーキ屋の外装。

ああ、叶わない。初恋の香り。