想像の小部屋

なんか色々まとめたり書いたり。

面談

「澄み渡る青空の下咲く紫陽花を、君はどう思う?」
にっこりと笑みを浮かべている彼が僕に問いかけた。いつものように、何処かを見ているようでどこも見ていない、そんな雰囲気で。
「…質問の真意が測れんな。」
読んでいた医学書を閉じて僕は答えでない言葉を返した。
当然、彼は不満なようで、その笑をたたえたまま、質問を具体的に修正する。
「紫陽花は雨の中がよく似合うでしょお?なのに、太陽の元晒されていては、あまりにも惨めじゃない?」
悪意も善意もない。思惑だけが存在している。
なぜ彼は僕を気に入っているのだろうか。僕の回答にそんなに期待しているのか。
「仕方が無い、答えよう。」
僕が彼に気に入られてると感じているのも、また彼の思惑通りなのか。
「僕はその紫陽花を美しいと言おう。胸を張って咲き誇れるのならそれは花として美しく、正しい。
そもそも雨が似合うからといって晴天が似合わない訳では無い。…貴様が勝手にイメージを押し付けているだけだ。
満足か…若林小太郎。」
今までの笑とは違う、何か裏のある笑みを浮かべた彼は、ゆっくりとその声帯を震わせる。
「やっぱり、君は素晴らしい子だねえ。由紀くん。
下駄の音を、カラコロと鳴らしながら僕の目の前までやって来て、彼は言う。
「本当に、僕のこと好きになってくれないのかなあ?」
「その言い方はやめろ、気持ち悪い。
つれないなあ、とクスクス笑った彼はまた僕から離れていく。
「だってねえ、僕は君が欲しいんだものお。」
扉から出る直前に、振り返って僕の目を見据えて言った。
「…君、僕と少し似てるんだあ」
にっこり笑ってひらひらと手を振り、姿を消した。
「…紫陽花。か。」
彼と話すのは疲れる。いちいち深いのか中身がないのか、なんとも掴み所のない話をされる。
だが、彼の瞳の奥に映る、憎悪と寂しさが見え隠れしてしまって。
彼なりの強い意志を、僕は知ってしまっている。
彼は人に首輪をかけるのがうまい。
「だが、かけさせはしないぞ。
お前の思い通りになどならん。思い知らせてやる。」
医学書は本棚に仕舞われ、彼の手は植木鉢に触れていた。
この間まで、美しいグラデーションがかかって可憐な紫陽花が咲いていた鉢。
果たして世話は誰の役目であったか。しかし、もぬけの殻になった今、もう関係が無い。
「…お前は、何も見えてはいない。」
何かしらの感情の込められたひとりごとは、そっと土へと消えていった。