想像の小部屋

なんか色々まとめたり書いたり。

コープスパーティーパロ 学戦①

※申し訳ない事にゲーム知らないと訳わからんかもです、ゲームでいうと直美ちゃんが世以子ちゃんと喧嘩するシーンです
※書きたいところだけ書くマンです
 
 
 
 

「…っ、はあ、はあっ……!」

寒くて怖くて吐き気がする。震えが止まらない。足が動こうとしない。そんな距離を走ったわけでもないのに息切れが激しい。
「…っうぇ、げほっ、」
堪らずにそれを吐き出せば恐ろしく惨めな気持ちになって涙が溢れてきた。
「石水!?」
こちらに駆け寄ってくる足音と、その音の主である彼の声が聞こえる。
「落ち着け、何があった。話せるか。」
傍に膝をついて、杏の背中に手を置いて彼は問う。みっともないと思って必死に落ち着こうとしても上手くいかない。
「落ち着け。急がなくていい。僕がわかるか。」
冷静な彼の声が耳と頭によく届く。
「…ごめんなさい、もう大丈夫です…。」
やっとの思いでそう言えば、彼は少し迷った後杏の背中からそっと手を離した。
「保健室で休んでいたら、急に黒い影が襲ってきて…。扉には髪の毛が絡まっていて、開かなくて、…どうにかそれを燃やしてでてきたんですが、つかれてしまって。」
状況を説明すると彼はどういった心情からか、少し顔を歪めた。
その後、杏から少し目をそらし、そうだったかとだけ相槌をうった。
「怪我はしていないんだな。」
「はい。」
「なら、ここから離れよう。」
そう言って彼は立ち上がる。
この人にしては、もう十分優しかったのだが、この時の杏は、それだけしか言葉をかけてくれないのかという不満と、さっきの出来事の恐怖からで、肯定的な考え方も行動も、する気が起きなかった。
「…離れたところで、どこにいくんですか。」
杏が立ち上がるのを待っていた彼が驚いたように目を開く。
「もう、ほとんど回ったじゃないですか。…誰も彼も、死んでたじゃないですか。
「石水。」
「安全そうに見えても、もうどこも安全じゃない。」
「石水!!」
杏の言葉を遮って彼が言葉を紡ぐ。
「そんな風に考えるのはやめろ。まだ見落としていることがあるかもしれないだろう。」
まるで希望を捨てない、その高潔な瞳がひどく眩しくて。杏の醜さを、露骨に写しているようで。
とにかく高ぶる感情を、押さえつけることが出来なかった。
「おめでたい人ですね?何がそんなに楽しいんですか。どうして貴方はそんなに平気で居られるんですか!?おかしいんですよ!本当に人間ですか!貴方は何を見てきたんですか!?」
今言うべきでない言葉ばかりが口から吐き出されていく。
まるで、子供が嫌なことから逃げるために泣き喚くような、そんな感覚が自身を襲い、胸のうちのもやつきが汚らしく吐き出されていくのがわかる。
「大体貴方が!ずっと保健室にさえ居てくれればこんな事にならなかったんですよ!それを勝手に出ていって、何か収穫はあったんですか!?なかったんでしょう!?
一度おさまった涙がまた溢れてくる。
「もう嫌あ…帰りたい、なんで貴方なんかと一緒なんですか、気遣い知らず、最低…っ、」
自分がしている事の酷さとは裏腹にどんどん胸が楽になっていく。
彼は今、どんな顔をしているのだろう。想像もつかない。確かめる、勇気も余裕もない。
「…僕は僕が正しいと思っている。」
ずっと黙っていた彼が、また、妙に内まで届く声で語り出す。
「僕は僕を信じている。僕が自らが死ぬと諦めれば、その思考は僕を殺すだろう。僕はそれを許さない。」
冷静で、静かで、そして怒りを含んだ彼の声。
「それはお前に対しても同じだ。石水杏。」
視界に映っている彼の手が力強く握り締められる。そっと表情を伺えば、一層綺麗に光る瞳が、杏のことを見つめていた。
「尊き命は、このような理不尽で失われるべきではない。また、僕が居ながら失われるなど、僕のプライドが許さん。…二度と自らを追い詰めるな。お前のその考え方は、お前自身を殺す。」
綺麗なその言葉達は、彼の意思によって発せられることでより美しさを増し、杏に突き刺さる。
「…誰もが貴方みたいに、強いと思わないでください。わからずや。」
 
「…ごめんなさい、少しの間、別行動をとってくれませんか。」
落ち着く時間が、自分には必要だと思った。
彼の言葉を受け容れる時間が、欲しかった。
 
 
*****
 
「…。」
言葉選びを、まちがってしまったのかもしれない。
彼女と別れたあと、1人床をきしませながら歩く僕は考えていた。
彼女が慕っていた兄は、僕と顔だけが似ていて、僕とは違って非常に優しい人だったと聞いたことがある。
こんな状況でくらい、彼女を優先して考えるべきだった。
「…いけないな、ひとりで居てしまっては。」
今、自分はどれほど頼りない顔をしているだろうか。弱気になってしまっては、いい精神状態を保てなくなるのは目に見えている。
そのためにも、本当は他人と、彼女といることで強くあろうと思っていたのに。
「…僕はどうしてこうも、」
その先の言葉を飲み込む。
僕は正しい。疑わなくて良いのだ。
今は反省よりも重要なことがある。
 
『―…――…!』
 
「…僕を、呼んでいるのか?」
 
その冷たい声が誘うままに、僕の足は暗闇へとすすんでいくのだった。