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私はカーテンを開けた。もう明かりは必要なさそうだったが、街灯はまだ消えて居ない。
部屋の電気を消してみれば、案の定少し暗かった。
時計を手に取る。5時前だ。
腰を休めたい。寝転ぼう。私は時計を腹に置き、手を添えて空を見つめた。
不思議と眠いわけではなかった。
不意に、赤い光が差し込んでいた。
慌てて私は窓の外を覗きこんだ。視界には鮮やかな赤色が入る。朝焼けだった。
雲を焦がすようなその赤色に私は興奮した。
外に出たかった。その空気を感じたくて私は窓を開けた。
朝焼けの隅っこが見える。私は物足りなかった。
急いで服を脱いだ。急いでまた服に袖を通し、ドアを開ける。
母が物音をたてた。疑問を浮かべるような声だった。
私は扉を開けた。外へ通じる玄関だ。
空気はすんでいるような気がした、外は涼しく軽かった。
朝焼けはまた少し見た眼を変えていた。
街灯はまだ、ついている。
部屋に戻った。名残惜しく手再び窓を開ける。
そうだ、この空気をとりこぼすのはもったいない、網戸にしよう。
カーテンも開けよう、朝を部屋に迎えよう。
やがて母は活動を始めた。
私が母に外へ出てもいいか尋ねると、了承の返事をしたのち「なんだ、お前か」と否定的な声をあげた。
私は階段を下った。
再び外へ出た。5時24分だった。
朝焼けが赤から橙に変わっている。オーバーレイをかけたような美しい橙だった。
私は歩を進めた。叱られるかとも思ったが歩み出さずにはいられなかった。
足の先にはまだ開いていない展望台があった。
展望台の横は坂道だ。階段があり、その先もまだ坂だった。
視界が開けていることを私は知っていた。再確認させるように、空の一部が切り取って見えた。
空は、美しかった。
光源へ近づくほど濃くなる影、遠ざかるほどぼけて淡くなる橙。いや、この時の橙は黄金色にも近かった。
朝日を黄金だと表現するのにもうなずけるようだった。
私は階段を下った。階段の一番下の段で立ち止まった。
私には立ち止まることができたのだ。
空を見上げた。空はやはり美しかった。鳥が鳴いていた。
自然は美しかった。無音でもない、煩くもない、それは美しい静寂だった。
人間の生活音がして、私は立ち止まりながら階段を上った。
ついでだ、展望台の横にあるまた視界の開けた駐車場にもよろう。私は歩を進める。
そこはさっきの坂道ほど絵面は整っていなかったが、より大きく視界が開けていた。
また朝焼けはその見た眼を変えていた。
私は家に向かって歩を進めた。朝の寺内町は、古き街並みはまた美しかった。
せっかくだ、この町並みのメインストリートを通ろうじゃないか。私は意気込んだ。
そして角を曲がって私は笑うかと思った。
ずっと薄くなったと思いこんでいた影はまだ健在だった。場所を変えて、また濃い影と橙色をのぞかせていた。
不思議と心が躍った。今は通うことも無くなった小学校の校舎が朝日を浴びて橙色に染まっていた。パースも無視したかのような巨大な銀杏の木が影も見えないほど全身に光を浴びている。
坂道を降りたい衝動にかられたが、私は瞳の奥に光景を焼きつけ角を曲がった。
その先は夕日を見た場所だった。
既にセミが鳴き始めていた。
夕日を見た時、すっかり逆光で真っ黒だった光景は朝日を帯びてその姿をあらわにしていた。そうか、お前たちはこんな光景だったんだねと私に納得させるかのように堂々としている塔をどこか興奮した気持ちで眺めていた。
すぐ隣にあった窓から誰かのいびきが聞こえる。
どうやら住人はお疲れのようだ、そろそろ目覚ましが鳴るころあいかもしれない。
私はくすりと笑って家路についた。もう家はすぐそこだった。
玄関をあけると、すでに少しずつではあるが暑くなりはじめた暗い階段を目にした。
階段を上ると、東向きに開いた窓からなみなみと注がれる日差しを受ける自らの部屋を目にした。
のどが渇いた、何か飲み物を手にしよう。
母は起き上がって空を見つめていた。
私は冷蔵庫の中からレモンティーを選びガラスのコップに注ぐ。
この紅茶の色は中々朝焼けにはかなわなさそうだった。
喉を潤しながら私は白いパソコンに指を滑らせる。
私を支えてくれる、私の愛しい人々に会わせてくれるこのパソコンも私の大切なものだった。
そういえば、先ほど姉の目覚ましが聞こえた。
人々が活動し始めるようだ。
私はただ、なんでもない文章を書き綴りたくて6時10分現在この文章をつづっている。
今から眠るのも悪くないかもしれない。