想像の小部屋

なんか色々まとめたり書いたり。

忘却。

「あなた誰よ!!近づかないで!!」

私が病室に入ったことに気がつくと、彼女はそう言った。

ああ、今日は”具合”が悪いようだ。

私は少しの間うつむいて感情を隠す。

「・・・ごめんね、お母さ―」

「いやああああああああああああ!!!!」

ガシャン、と何かが割れるような音が近くで聞こえた。

足元に花瓶の破片が落ちている。

頭から生ぬるい、赤い液体が零れた。

彼女に謝るために、口を開いたことで彼女の気に障ったのだろうか。

お医者様がバタバタと走ってくる音が聞こえる。

「秋月さん!?どうかなさいましたか・・・っ、!娘さん、大丈夫ですか!」

看護婦さんが頭から血を流す私を心配した。

私は笑って言う。

「・・・っははははは、お母さん、花瓶投げる力があるなら体調はバッチリだね、」

 

 

「!?ゆ、結奈それどうしたんだよ・・・・!」

「結奈?だ、大丈夫?」

爽と千沙が私の頭の包帯を見るなり驚いたような声をあげた。

母親の入院している病院から寮に帰ってきてまっさきに会うのが友人の二人でよかったと。こころから思った。ふたりをみるといつも通りだって、安心できる。

「大丈夫wwww大した怪我じゃないからwwwww」

正直に言うとかなり痛いが大した怪我じゃないことは確かだった。

 

痛くて、大丈夫じゃないのは体ではなくて、心の方だった。

 

「お母さん!見て見てうまく作れたでしょ!」

幼いころ、私はお世辞にも良い出来だとは言えないような花の冠を母に自慢したことがある。

別に1回じゃない。仕事で忙しい母に教えてもらった数少ない物だったからたくさん作ってそのたびに見せていたような気もする。

いつもは母も笑って「そうね、上手よ」と言ってくれていた。

父が戦死したという知らせが来るまでの間は、だったけれど。

母は異常なほど父を愛していた。父さえ居れば、他は何もいらないというのが彼女の口癖だったくらいだ。

そんな母が「ご愁傷様です」という言葉に正気で居られるはずなんてなかったのだ。

初めて母親に「あなた、誰?」といわれたのは14歳の頃だった。

 

統合失調症。お医者様はそう言った。

精神病の一種で、過去には「精神分裂病」といわれていたらしい。

錯乱状態に陥ると思考がままならなくなり、家族の事を認識するのもむずかしくなるのだとか。

母は入院することになり、私もしばらく泊まり込みで付き添った。

だが母の容体は悪くなる一方で、私のこともわからない時が多かった。

お医者様は私の精神状態を気遣い、お見舞いに来る回数を減らすように言ってくれた。

 

私が父と同じ学校に入った今でも、母の病気はよくならない。

「結奈、なんかあったら言ってね?この漆黒の堕天使、千沙様が力になるんだから!」

「堕天使の力でwww元気になるとかwwww嫌だわwwwwww」

笑ってないと私も押しつぶされるような気がしていつも怖い。

「わらってる場合かよwwwでもマジでなんかあったら言えよな!」

「何らしくないこと言ってんのwwwwwwwwwアンタに言われなくてもわかってるし」

「なんだと('ω')」

いつもの会話をして、今が普段の日常だと安心したい。

私のこと、忘れる人なんて

 

「・・・あ、先輩!!」

居ないって。

 

「あっばか結奈ー!言い逃げかー!!」

 

「結奈wwwww見付けるの早いwwww」

 

「・・・?、秋月?どうしたそんなに走ってきて・・・。」 

 

信じて、いたくて。

 

 

「えっへへwwwwみかけたんでwwwついwwwwww」

「そうか・・・、!お前その傷どうした?」

 

「なんでしたっけ?wwwwwwwwもう、忘れちゃいました・・・、ね!www」