想像の小部屋

なんか色々まとめたり書いたり。

美的センスと恋心

綺麗だなと思った。
俺には音楽も美術もよくわからないから、なにがどう美しいとかそういう難しいことは言えないけど、ただひたすら、目を奪われていた。
少し伏せられた目とか、それでわかる長いまつげとか、風に揺れる髪とか。繊細に弦に触れる指とか、どこを見ても虜になるくらい俺に聞かせるために音楽を奏でる彼は愛おしく見える。
彼の音色よりも彼自身にばかり注目していることがばれたら、きっと彼は怒るだろうけど、俺が彼自身を見てどんなふうに考えているかなんてきっと伝わることはない。
…伝える、こともない。かもしれない。
「…聞いてんのかよ、慎耶。」
バイオリンを肩からおろしながらそう話しかけてきた彼の視線が俺を捕らえる。
窓から切り抜かれた夕焼けが彼の背後にあって、まるで彼をモデルにとった一枚の絵画のようだった。
ああ、知っていたけれど、やっぱり適わない。

綺麗だと思った。どうしようもなく、彼を―優一のことを、愛してしまったんだなと思った。

「おい、慎耶?」
「うん?」
「な、なんだよその顔…どうだった?演奏。」
「うーん…。」

「綺麗だったぜ!また俺に聞かせてくれよな!」