遺書
彼女はいつも輝いている。
キラキラと笑い、花のように頬を染め、バイオリンの音色のような声で私の名を呼ぶ。
マイプリンセスと呼ぶのは軽率だろうか、しかし私のものかは別としても、彼女が姫であることには変わりない。
私は彼女に恋をしている。
*
学園の王子の名を欲しいがままにする、マイペースが過ぎる彼――正確にいえば彼とも彼女とも形容できないが――の周囲にはよく女性が集まっている。男性が集まらない訳では無いが、女性の方が付きまとっている時間は長いだろう。
王子は女性が好きであった。
皆に手を差し伸べ、皆を平等に侍らせ、その姿はまるで一夫多妻の王族のようだ。マントのように羽織ったローブがまた助長させる。
にこにこと笑う彼はそれを鼻にもかけず、程よく抜けているその性格で男女双方から人気を集めていた。
一方で、王子とは違う様子だがクラスの皆から好かれる少女が居た。
平凡な女の子、と少女漫画の冒頭で説明が付きそうな素朴な可愛らしさを持ち、明るい笑顔で友人としての人気を有する少女だった。
ほかの女の子と同じように甘いものを好み、ほかの女の子と同じように可愛いものに憧れていた。
そんな彼女の圧倒的な周囲との違いは、王子にいたく気に入られている事だった。
きっかけなどない。ただ初めてあったその時から、当然であるかのように気に入られたのだ。
シンデレラのように舞踏会に行ったわけでも、白雪姫のように硝子の棺で眠っていたわけでもなかったが、少女は王子にとってのお姫様だったのだ。
「やあ、マイプリンセス」
そう王子が微笑みかけるのは決まって姫がひとりでいる時だった。
所有格をつけてまで呼びかけるのが少女に対してだけだと少女は知っているのだろうか。
王子がそれを故意的にやっているのかも、神のみぞ知ると言ったところなのだろう。
2人の間に確かな好意があるのにも関わらず、彼らの距離はいつまでも一定に保たれていた。
*
臆病な私を許しておくれ、リーリエ。
そして君を言い訳に使ってしまうこと、情けないことだとわかっているつもりだよ。
仕方ないとは言わないさ、私も。
今の私を嘆くことなどしないさ。不満に思うこともない。
あの時以降も私はたくさんの幸せを享受している。私はこの世界を愛している。
それでも、君を愛することは。
君に、愛されることは。
……わかるかい?リーリエ。
私は君の彼氏になることも、彼女になることも、配偶者になることもできないのだよ。
ましてや、君の王子になんて、私にはなれない。
私の愛は、そこに責任を感じるほど、深く大きいものになってしまっている。
だからね、もっと時間が欲しいのさ。
私が、君を不幸にするその覚悟ができるまで。
私が、冠を捨てて闇に消える覚悟ができるまで。
それから、私を見損なっておくれ、リーリエ。