想像の小部屋

なんか色々まとめたり書いたり。

恋の罠

好きな色はなあに?

緑だよ、お母さん。

あら、そうなの!お母さんもねえ、緑色大好きよ美春、おそろいね。

うん、嬉しいね、お母さん。

 

小学校の頃、そう言った会話をしたら、同級生の女の子に本当にみどり色が好きなの?嘘っぽいわ、と言われたことがあった。

彼女がどういうつもりでそれを言ったのかは知らないが、俺は普通に緑色は好きだった。

新緑の色、生命の色。一息つく緑茶の色。美しいオーロラの色。

まあ確かに、特別好きなんてものじゃなかったかな。

当時からそう言った性質で、ある程度の好みはあれど、突き抜けた好きも嫌いも持たない人間だった。

 

「隊長ー!」

ふと顔をあげると、遠くで美しい緑色が、日光を受けて柔らかく輝きながら細められていた。

白いシャツに身を包んで、暖かい色の茶髪を揺らし、男性らしい手を俺に向かって振っている、その人の瞳。

割とお気に入りのこの文庫本の、丁寧にデザイナーに選び抜かれた緑色なんかよりよほど綺麗だった。宝石に例えるのもいやらしいのではないかと疑うくらい、彼の瞳はまぶしい。

近くまで芝生を踏みしめて歩いてくる大きな足も、木漏れ日で点々と輝く健康的な肌も、

一つ一つ、毎秒俺を恋に落とす。

こんなに夢中になって、俺は俺を許せるだろうか。君は、気づかないでいてくれるだろうか。

だけど、気付いて欲しくないわけじゃないんだ。月夜よし、夜よしと人に告げやらばってね。

ああ、また頭がいっぱいになってしまう。

 

さらさらと風が吹いた。

 

君の少し長い髪から君の香りが秋の終わりと共にやってくる。

「冷え込んできたな。」

そうへらりと笑った君の表情にまた、恋に落とされた。