「死ぬなよ、苦しむまでは。」
よる、おやすみするときに おふとんからうでやあしがとびでていると おばけにつれていかれちゃうんだよ
昔読んだ絵本にそう言ったことが書かれていたのを覚えている。
当時おばけを怖がった僕は布団の中で丸まるだけでは恐怖心は収まらず、両親に泣きついてふたりの間に入れてもらって寝たものだ。
親子で川の字なんて、初めてね。お父さん。
ああ、親子で、川の字。初めてだな。
確認し合うようにそう話していた両親の言葉は、僕に対する愛情に満ちていていて、とても優しいものだった、気がしている。
あの時、彼はもう自分の部屋を持っていたんだっけ。
まあ、そんな記憶ももう思い出に変わってから数年経つ。
すっかりおばけなんて信じなくなって、夜寝る時に丸まる理由も変わってしまった。
それでも僕はあの頃と違って、時々だけど、わざと片手を布団の外に出して寝るようになった。
だってもしも連れ去ってくれるなら、
その行き先にはきっと家族がいるのでしょう?
なんて。
「……。」
「ほっそい手首。」
朝目覚めても、寝る前と同じ天井が視界に入る。
当たり前のことなのだけど、それが悲しくて、だけど安心できて、僕は弱虫なのだと実感させられた。
外に出しておいた手は寝相で布団の中へ戻ったしまっていたらしく、冷えることなく太い血管で僕の手先まで血を通わせていた。