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想像の小部屋

なんか色々まとめたり書いたり。

兎上の義兄弟

この家には元々養子で貰われてきた兄が居るという話だった。しかも、その兄は僕さえ見つからなければ後継になる予定だったらしい。

そこから僕が導き出した答えはひとつ、おそらく僕は兄とうまくやれないだろうということだった。

 

国内での戦は収まることを知らず、たった一つ小さな島国の未来をああするこうするといった、せせこましい戦いではやはり、優れた武器を持つことが勝利のために必要だ。

そんな世の中、この兎上の家業である軍馬の育成の商売は実に成功している。

だから子を成せない女性に心奪われてしまった馬鹿な主人は、仕方なく養子をあれこれ探さなければならなかった。

最初に引き取った子は、優秀ではあるが、何やら言うことを聞かないらしく、跡取りにはあまりにも向いていないらしく、僕を買い取ったのだと義父が話した。

子供を買うような大人なのだから、そういう子は簡単に売ってしまうものではないのかと思ったのだが、一人目の子はまだ養っているようだった。僕がダメだった時の保険なのかもしれない。

 

その兄とは家についてからもしばらく会うことはなかった。というのも、兄は多忙だったからである。

兎上に課せられた膨大な量の教育に、何を思ったのか追加で医学を学ばせてほしいと申し出たらしい。彼はそこいらのブラック企業社員さながらの休み時間しか取っていないらしかった。

時折すれ違うこともあったが、前述したように、嫌われていると思い込んでいた僕は俯いてあの綺麗な顔立ちを避けていたので、少なくとも1ヵ月はまともに言葉を交わさなかっただろう。

そんな僕はここに買われてくる前、少し貧乏な孤児院にいた。優しかった先生や仲の良かった友達を思い出して寂しくなることも多く、義父からの期待や厳しい勉強、マナーチェックなどに、日々疲れていっていたように思う。

夜中に布団の中で泣くことも多かった。

その夕暮れも、ドアが隙間を開けていることに気づかずに弱々しく泣いていた。

「…どうかしたのか。」

不意に届いた声にひどく驚かされ、ついに僕は兄と目を合わせたのだった。

 

僕はずっと兄という会ってもいない人間を、勝手に誤解していた。

僕を抱きしめた腕は力強く、そっと撫でてくれる手はとても優しかった。

泣きやめない僕はそれが悔しくて、僕のことなんて恨んでいるんだとか、自分だって寂しいくせに、とか初対面の彼にさんざんまくしたてた。

「そんなことはない。」

「僕がお前を恨む理由なんて無いだろう。」

「僕は、お前の兄なのだから。」

そう言ってくれた彼は、本当に自分の兄なのだというような気がして、妙に安心させられてしまった。

「ずいぶん、甘えるのが下手な弟だな。」

数年後にはあなたには言われたくないと返せただろうこの言葉も、当時の僕には救いだった。

 

養父母は僕ら兄弟を実の子供のように愛してくれていたらしかった。父は不器用なため、兄に素直な愛情表現をするのは苦手なようだったが、僕は二人目だからか多少はマシな態度をとってくれていた。

だから僕も、兄と同じで彼らの期待に応えようと思ったのだ。

兄との違いは、僕に確固たる目標がなかった事だ。

結局、仲良く話すような時間は普通の兄弟より遥かに少なかったが僕はあの人を尊敬している。

今頃、またあの誤解されやすい態度で孤高の紳士にでもなっているのだろう。彼らしいといえば彼らしい。

たまに送ってくれる手紙も相変わらず偉そうだ。最近は少し友達ができたみたいで、はしゃいでるようにも見えるけど。

 

ああ、時間だ。僕は勉強しなくちゃいけない。

だって、あの兄から僕は

この家を任されたのだから。

 

見ていてください、尊敬する兄上。手紙の返事はまた今度。