5円程度の回想
「おい、黒霧の!菊哉来てねえか!」
「きてない」
「きてないです」
「クソッ…おい菊哉ァ!どこだ!」
ドスドスと離れていく足音を聞き終えるとら少年少女は襖の中に隠れていたもうひとりの少年に声をかける。
「もう行ったよ、大丈夫?」
「出てこいよ、菊哉。」
そろそろと襖を開けて、自分を探しに来た父親が居ないことを確認すると、目にうっすら滲んだ涙を拭いながら安堵したように少年―菊哉は礼を言った。
「ありがとな、兄貴、和希。」
その答えに顔を綻ばせた兄貴と呼ばれた、月という少年と和希という少女は押し入れから菊哉を引きずり出した。
いつも泣きながら、それでも自ら親について行ってしまう彼の忠実さを幼いながらに心配していたのだろう。
3人で遊ぼうと作戦会議に夢中になっていたからか、それとも彼が足音を消すのが上手いからなのか、近寄ってきた彼に気付けないのはいつものことである。
「やーっぱり旦那様に嘘ついてたな月に和希ぃ!」
勢いよく開かれた障子の先に、明朗な笑顔を携えて立っていたのは、菓子類をたくさん持ったもうひとりの菊哉の兄貴分だった。
「真白!」
名を呼ばれた2人より早く反応した菊哉は悪い兄貴分に部屋にまた隠され、作戦会議の続きに勤しむことになる。
いずれ殺される原因となるその世話焼きな性分は3人の少年少女の心を惹き付けるには充分だった。新垣真白とは、鮫島組の若頭であり、鮫島菊哉の兄貴分であった。
氏名 新垣 真白
ふりがな あらがき ましろ
生年月日 ××××年 〇月△日
死亡した所 □□県■■市**町
住所 □□県■■市**町
世帯主の氏名 鮫島 春哉
死亡した人の夫 または妻 ✓いない
死亡した人の職業 自由業
届出人 ✓4,家主
署名 鮫島 春哉
死亡届
××××年 5月11日