未だ知らず
「そういえば俺夢兎のこと、あんま知らねえなあ」
生前よく友人にはそう言われたものだ。いや、別に隠したりしてたわけじゃない。というか、隠すほどの出来事はこの身の上に起こっていない。
よく思い出さずとも、意外と不幸なことなど起きていなかった人生だ。死んでしまった直後こそ、友人の間で話題になったが、深い中の友人など居なかったらしく、また日常に溶けていってしまった。……彼女は、悲しんでくれていたと願っているが。
話を戻そうか、そう、俺って無自覚だけど 秘密主義らしい。
他人の秘密にも足を突っ込まず、自分のどす黒い腹の中にも入らせず。のらりくらりとアホヅラ1丁で生きてきた。らしい。
まあ自分の持ってたマイナスな感情を、他人にひけらかさなかったというのは間違いじゃない。聞かれるのも好きではなかったし、悟られるのすら嫌だった。だからと言って完璧に隠せていたかは別の話だ。
もしかしたら、特別好きだったあの子を除いて、他人の秘密を共有したりするのも面倒だったのかもしれない。
だからかな。
俺は君のことをまだ何も知らない。
知ってしまっていいのだろうか、消えゆく俺が共有してもいいのだろうか。
君の揺れるその赤い瞳が、なにを思い、細められるのか、伏せられるのか、…知ってもいいだろうか。
そうならば、いや、それとも君も、秘密主義なのかなあ。
俺、君になら、……ああ、いやなんでもないんだ。
もしも。
「もしも体すらなくなった俺でいいなら、君のこと。」