パレットには君がいっぱい!
いわゆる天才だと称される人種の一人に生まれ落ちた。
母はそれをいたく喜び、自慢し、自分の自慢好意が恥ずかしいものにならないようにそれを強いた。
父は母ほどでもなく、普通に喜び、普通に俺を呼んだが、いつの間にかこの才に慣れてしまったようで。何も言わなくなった。
ぐしゃぐしゃに丸められた、四方どこを見ても他人から見える自分が反射されたアルミホイルの中で生きるような感覚。
いつでも自分を確認させられているような、そんな生き方。広く見ているつもりで、狭すぎるこの世界。
不幸だとは思わなかった。親から求められ、褒められ、愛されていた。
彼に比べればよほど。ただ、正しいとも思ってはいなかった。
だから世界をパレットにした。好きな色を作ろうと、キャンバスを探して。
彼を最初に世界に招き入れたのは彼にとっては不幸だったのかも。
それでも戯曲に付き合ってくれと、俺は微笑みかけた。
彼と俺は、どうしたって相対的な人類であった。
世間は人が回している。
曇天と、雨。敗北の男性と死す女性、立ち尽くす神童。
痛みと赤と、そして体と。指輪。
降り注ぐ音。太陽の彼の絶望した顔と震えた手は、俺に手遅れを告げるには十分すぎた。
耳によく残っていた。
「どうして、こんな、残酷なことを」
そういった、太陽を。
彼も俺も、浮かれていたことに変わりはない。だから待っていたのだ。死が。
原点を忘れ、ただ放浪する魂に安らぎが訪れる世界が望ましい。
だけど仕方ない。
もうピアノは弾けないけれどレコードでも構わないかな。せっかくなら機嫌の良いワルツがいいよね?
だからどうか。
色があるように。君が、居たように。
俺は?俺はどうしよう。
「こうしよう。」
世界を見ているつもりだった。人間は気付いた時に皆等しくそう言うはずだ。
だってあまりにも哀れじゃないか!
理屈も言い訳もない、ただ巨大な地球の上で花を咲かせだけのこと。
自分の開花にも気づけない人種が居るなかで、それでもこんなこと!
もっと早くにその色を口説くべきだったのだ。彼を、きっと殺したのは。
散り散りになる思考と人格と自意識が。
もうもとになどもどらなくてよかった、枠だけがあれば、受け入れらる気がした。
毒毒しく散った彼も、華々しく散れるであろう俺も。
「変わらない、ずっと、アルミホイルのパレットの中で雨音を聞いているだけなんだよ。それこそ、夢を追って穴に落ちる兎のようにさ。」