想像の小部屋

なんか色々まとめたり書いたり。

雪解けノイズ

王都よりもずっとずっと北のそのさらに果て。
深い緑の森の、その奥の谷の底。
薄い氷と真っ白な雪に囲まれた、それは美しい一族の住む村がありました。
村でいちばんの美しい大人が長になり、美しくない人はいじわるをされる、そんな村でした。
さて、谷には精霊様がおられました。
常冬の地に、たった1週間の春を運んでくれる、それは美しい精霊様だというお話でした。
寂しがりな精霊様は、春を共に運んでくれる友達が居ないと春を運べません。
だから村の人は、いちばん美しい、その年15になる者を精霊様の仲間に献上することをしきたりとしたのです。

その村では、美しいことが何よりも 優れていたのです。

「…そんな馬鹿な話があると思う?美しくたって、良いことなんてひとつも無いさ。」
彼はそう愚痴を吐いた。視線の先は真っ白な雪。誰も、命を持って話をしてくれる人は周囲に居ない。
「現にぼくは今ひとりごと会議の最中だ。500年にひとりの美しい人、なんて。
おかげで妬まれるし、敬遠されるし、ぼくだって皆と雪だるま作りをしたいのに。」
仏頂面をしていても整いすぎた顔立ちをした彼は、今年15になる。春を心待ちにする村人のうちのひとり。
「…精霊様が、友達になってくれるなら。なあ。」


「美しさなんて、ただの罰だよ。」