質疑応答
「・・・私は、生きとし生ける人間を愛しています。」
「嘘だな。」
「何故そのように仰るのですか。」
「事実だからだ。」
「私にもわかるような説明をしてもらって良いですか。」
「・・・お前は、”死”を司る神だ。また、母もそうだった。」
「そうです。」
「だからだ。お前は泣いたことがあるか?笑ったことがあるか?」
「ありません。」
「そんなお前がどうして生きる人を愛せる?」
「泣くことや笑うことと、人を愛することとどう結びつくのでしょうか。」
「同じだ。愛も、喜怒哀楽と同じ感情の一種だ。その中でも特別ややこしい物だろ?喜怒哀楽すべてを含み、それらを巧みに使えなければ、愛なんて持てやしねえさ。」
「・・・私は、愛しているつもりになっているだけで、愛など知らないのですか。」
「なぜそれを俺に聞くんだ。」
「わからないからです。」
「・・・お前の長所は素直なところと言葉をたくさん知っているところだ。だが短所のほうが今は目立つな。それは知ることばかりを求め、探究することをしないことだ。」
「考えろと言いたいのですか?」
「当たり前だ、全部教えちゃつまらねーし、俺のクローンができちまう。」
「しかし」
「お前にはやがて終わりが訪れる。」
「・・・・。」
「やがて終わりが訪れ、その時に今までの時間を悔やみ、そして自らの空虚さを思い知るだろう。だがお前はこう思う。自分はよくやった、社会に貢献し、愛しい人間を来世へと送る誇り高い仕事を全うし、幸福な生涯を送った、と。
だがその幸福は誰の幸福だ?そうだ、それはお前の幸福じゃない。社会の幸福、世界が円滑に回っているという常識にその幸福は吸収される。
お前の元には何が残った?そうだ。何も残らない。だがそれじゃつまらないんだろ?」
「・・・あなたは、人間が好きなのかと思っていました。」
「嫌いじゃねーさ。」
「いえ、人間を奴隷にする、神々など嫌いだと思っていたのです。」
「なぜだ?神々もまた命を持っている。」
「わかりません」
「俺からすれば人間も神々も大差ないっつーことだ。」
「共通点があると?」
「逆に相違点の方が少ないだろ。」
「一番の類似点はどこなのですか。」
「そうだな」
「….。」
「お前達は等しく…自分を知らないという所だな。」
「迷うな、エジプトの神アヌビス。お前はその存在に価値と意味がある。」
「…なるほど。私はこれで失礼します、運命の神、プラアムジス。」