想像の小部屋

なんか色々まとめたり書いたり。

守護者

「やだ、またあの子だわ」
「どうしたものかしら、困るわあ」
「いっそ追い出せたらねえ」
「やめなさいよ、かわいそうでしょう」

今日も施設の先生方の声が聞こえる。またあの人は何かやらかしたらしい。
大方、迷い込んできた猫でも殺したのだろう。理由なんて聞かなくても明確にわかる。
"敵意を感じたから"
ただそれだけなのだろう。
あれやこれやと言い訳してきたが、そろそろ限界だ。
だって、あの人はそれが悪いことだと知らない。


「姉さん」
一心不乱にテレビという箱を見つめ続けている姉に声をかける。
「ちょっとだけ待ってくれよバルド!今最高にかっこいいところなんだ!!」
目を輝かせる彼女は、今この瞬間だけ見ればただの一少女なのだ。
テレビの中では数人の女性が音楽に合わせて軽快なステップを踏んでいる。
「…姉さん、前に、顔にペイントつけてみたいって言ってたよね。」
視線がぎゅんっとこちらに向く。
期待の眼差し。….少し、心が傷んだ気がする。
「もしかしてやらせてくれるのか!?」
僕の持っている壺をじーっと見つめて彼女は言った。そんなに見られると、すぐに気付かれそうで、僕はさり気なく壺を両手で包みながら肯定の意を返した。
「おおお!わかっているなあ我が弟よ!!」
「痛いよ姉さん背中叩かないで!」
バシバシ背中を叩かれて痛い思いをしながら、僕はあまりその痛覚を実感してはいなかった。

「…なあ?」
「ん?」
鏡越しに彼女と目が合う。
全てを見抜かしそうな、それは鬼才の眼差し。
「結局このペイントは、何で落ちるんだ?」
ゆっくりと諭すように。しかし確信的な、意味を含めたペイントと言う言葉が僕の意識に突き刺さる。
「ごめんね、姉さん。」
「どうして?」
「もう、無くなっちゃった。
「…なに?」
僕はこの時、悪魔のように楽しそうな顔をしていたそうだ。
僕自身は、少しさみしい思いをしていた気がするのだが。
「…もう姉さんは思う存分は魔法を使えないよ。姉さん。命を奪っちゃいけないんだよ。僕たちじゃだめなんだ。
…わかってくれないだろ?」
「バルドを守れるなら、私は悪だってかまわないさ。」
「ダメなんだよ姉さん。」
「…そうか、それで結局?私のこの黒き枷を外すための、その薬はなんだ?」

そう、その薬。
もう枯れ果ててしまったその薬。


「…僕の涙だよ。姉さん。」