ひとりぼっちは嫌い。
お母さんは、こんな歳の僕から見てもしっかりしてなかったし、ちょっと不器用だった。
周囲からは「あんな若さで専業主婦だなんて」と言われていたり「見た目が可愛いからって許されると思っているのかしら」なんて散々な言われようだったが、確かにあの人は大人にしてはずいぶんと頭が良くなかった気がする。
お父さんは対照的に、誰から見ても素晴らしい人だった。
軍事国家である今の祖国において、白軍の上層部に腰を下ろし、立派な戦績と学績を持ち、知的で家事もこなし、お母さんを支えて収入も十分。
僕も尊敬してた。家にいる時は極力勉強や運動を教えてもらっていた。
まあ、普段は仕事で忙しくて会えなかったけれど。
ここ数日はいつもにもましてお母さんがぽんこつだったことは察していた。
「・・・おかあ、さん、?」
晴れた空に白い入道雲、枯れた向日葵に閉められた雨戸、暗い室内。
痛々しい日差しが僕の体を通して部屋の中に一筋の光を通す。
ひどい、ひどい、ひどい、臭い。
空中に浮いた、白い足、細い脚。
足元に溜まった汚物、混ざった液体、汚い、色。
セミが鳴いて、寒くて、汗が出て、足が震える。
歯がカチカチと音を立て、異常なまでの吐き気がする。
涙腺は機能を失う。
視界がぐるぐると回るようだった。
背後から近所のおばさんの悲鳴と、サイレンが聞こえていた。
そのあとで僕は、彼女の自殺の動機が家族の死だったと知った。
「ねえ、どこに行くの。」
「どうして、ぼくを置いていくの。」
「待ってよ」
「なんで」
「いやだよ」
「やだ」
「・・・・」
目が覚めると、右頬だけが妙に冷たかった。
濡れているのだと気づいて、瞼が痛くなるほど擦った。
時計の短針がさしているのは5の数字。
部屋は薄暗い。だれも、居ない。
「・・・や、」
声が掠れてる。
僕は大きいベッドから起き上がって寝巻の上から上着を着こむ。
そして僕はまた知らない道を選んで歩きだす。
消えてしまった彼らと出会えるだろうか、しかし、出会ってしまったら僕は、どこにいることになるのだろうか。
ぼくは、ひとりぼっちはきらいだった。