その決裂から家を出るまで
「・・・!!でき、た・・・!」
自分の言うことだけを従順に聞くネズミが2,3匹。自分の言うことだけを従順にこなすフクロウが1羽。
ずっとできなかった課題をクリアした瞬間だった。
もうこれで怒られずにすむか?やっと褒めてもらえるか?自分は立派になったようだ?
様々な思いが胸を駆け巡り、うるさい鼓動を響かせる。
自然と笑みがこぼれる。こんなにも嬉しいと感じた瞬間が生まれてからあっただろうか。
懐かしい感覚。本当に幼かった頃以来だ。
下僕達をほっぽりだして、勢いよく暗闇の部屋から飛び出す。
「・・・親父!親父様!!」
廊下を走っている途中で、皿を持ったメイドとぶつかりかかった。軽く悲鳴をあげたメイドに謝るのもそこそこに駆け抜ける。
途中で絨毯に足がひっかかったような気もしたが確認しなかった。それぐらい嬉しくて、期待に胸をはせていたのだ。
なのに。
「親父様!!」
ドアを勢いよく開けた俺が目にした人物は、1人ではなかった。
にわか雨が降りだす。
親父様の声が雨音にかすむ。
今、俺はどんな顔をしているのだろう?
結局。
「ずいぶんと、遅かったんだね。ギルバート。」
冷たい声が、凛と通って鼓膜を揺らす。
静かな恨みの念が、奴の瞳を反射して突き刺さる。
「・・・今日からお前は用無しなんだよ。無様だね、出来損ないめ。」
絶対的なその才能を、祝福するように雷が轟く。
彼の言うことだけを従順に聞く上級悪魔が5体。彼の言うことだけを従順にこなす精霊が8体。
自分よりはるかに早く、自分よりはるかに上手く。
わかっていたのかもしれない。
「そうだ、何の用だったんだギルバート。」
「・・・なんでもねえや、その魔法、俺には難しすぎてできねえって弱音吐きに来たところだ。」
「そうか、なら安心しろ。お前はもうそれを学ばなくて良い。」
「・・・は?」
「今後一切お前の教育は打ち切るといっている。」
「・・・なん、で」
「お前だって勉強が嫌いだろう?」
「・・・・・。」
「ああ。嫌いだ。ありがとうございます、せいせいするぜ。」
「敬語はきちんと使え。」
「・・・・はい。」
もうどうでもよかった。
不良品は不良品らしく生きていければそれでいい。
自由じゃないか。何も嫌なことなんてない。
何も、不幸なことじゃない。
どうでもいい。どうでもいい。
「お前は出来損ないなんだからせめて大人しくしろ、トランス家に泥を塗る気か。」
「ただでさえ何もできないんだから何もしないでくれ、迷惑だ。」
「恥さらしめ。」
「無能め。」
「お前のような子を産んだのが恥ずかしい。」
「お前は一家の恥だ。」
どうでもいい。
わかってる。
「うるせえ。」
「俺が悪いのか?」
「なんで?」
「どうでもいいや」
「お前が、悪いんじゃないのか。」
「興味ねえや。」
「邪魔なのか。そうか。」
「親父、俺、あの学校に入学するわ。」
「・・・”俺”の言うこと聞けるよなあ?そーだそーだ、良い子だなあ。」
「・・・・じゃあな。」
下僕の手で押された印鑑のついた小切手と入学手続き書。
雨は今日も晴れてくれなかった。