【告白の日】改めまして。
*椿結*
「あ、」
少女は一人本を読む青年を見つけた。青年は少女に気付く様子はなかった。
「せんぱ・・・っ、」
少女は勢いよく駆け出しかけて動きを止めた。
そして慌ててポケットを探り、鏡を取り出した。
少女は先ほどまで友人達とばかみたいに走り回って遊んでいた。
男の人に話しかけに行くには、いささか身なりが乱れすぎていたのである。
どれだけはしゃいでいたのかと自分に呆れつつ前髪をなおす。
「・・・よし!」
今度こそと意気込んで少女は駆け出した。
愛しの恋人、本を読んでいる青年のもとへ。
「先輩!昨日ぶりーっすwwwwwwww」
「ん、秋月か。どうした?」
「えっへへwwwえっとーwwwww今日って5月9日じゃないっすかwww」
「そうだな。」
「語呂合わせで今日って”告白の日”なんすよ!www」
「だから!・・・改めて!真面目に聞いてほしいん・・・ですよ!」
少女はうつむいて、そして笑顔で顔を上げた。
「私、ずーっと先輩の事好きで居るつもりなんで!これからもよろしくっす!!」
*鏡実*
「・・・鏡夜ー。」
何度目かになる呼びかけを、青年はしていた。
相手は眠る金髪の少年。かれこれ10分ほど呼びかけているのだが起きる気配はなかった。
「・・・なんだよー、いっつもすぐ起きるくせに。」
そう言って少年の頬をつつく。
それでも少年は少し唸っただけで目を覚まさなかった。
「しっかたねえな・・・。聞いてないくても、お前が悪いんだぜ?」
意地悪そうに、けれど優しそうに彼は笑った。
そして、そっと少年の額に口づけを落とす。
「好きだぜ、鏡夜。・・・いつまでもな。」
*真悠*
「悠。」
青年は遠くを歩く自身の恋人を見つけ、呟いた。
いつまでも青年は、白い服を着た恋人を見るのが得意ではなかった。
「・・・悠。ねえ。」
どう考えても聞こえない距離。どう見ても届かない声の大きさで彼は言う。
「悠。好きだよ、大好き。ねえ。」
「どうして、」
青年は、そして彼の恋人は歩みを止めた。
青年は辛くなったから。彼の恋人は青年を見付けたから。
「真!」
彼の恋人は彼を呼ぶ。
「・・・?真?どうしたの、なんか・・・泣きそうな顔してるけど?」
「・・・ううん。なんでもない。」
青年は愛しい恋人に伸ばしかけた手をひっこめて、強く握った。
「悠。いつか、必ず。」
「だから、待ってて。絶対に。」
「好き、・・・悠のことが。」
「!・・・わかってるよ。」
二人は笑った。けれども胸の内はきっと、バラバラだっただろう。
*薫塔*
「薫子ー!」
彼女は手作りのカップケーキを持って恋人のもとへ訪ねた。
昔旧友から教えてもらった行事、というか5月9日のこの日。
たまには本来の性別らしく、彼女は恋人への施しをしに来たのだ。
「塔里さん!こんにちは」
嬉しそうに笑った彼女の恋人を見て、彼女もまた嬉しそうにはにかむ。
「これ、やるよ。よかったら食えよ!」
「わあ・・・美味しそうです・・ありがとうございます!」
幸せそうな恋人の顔は、彼女を何より元気にさせる。
彼女はそんな顔をずっと見ていたいと心から願った。
「・・・?塔里さん、これは?」
不思議そうな顔で、彼女のあげたカップケーキと一緒に入っていたメッセージカードを取り出す。
しめた、と彼女は思い悪戯っぽく言った。
「へへ、開けてみろよ。すぐわかるぜ!」
相変わらず疑問符を浮かべる恋人をせかしてメッセージカードを開けさせる。
直後、恋人は顔を赤くして彼女を見た。
「・・・そこに書いてあるとおりだぞ!お前の事ずっと愛してやるからな!」
*秋杏*
少女は遠くにいる3年生に見とれていた。
同い年の少女に微笑みかける、片想いをこじらせている相手の3年生を。
「・・・やっぱり、杏なんかより。」
少女は自分が嫌いだった。
彼に愛されることのない自分が。
少なくとも少女はそう思っていた。
妬みのこもる目で彼と笑い合う少女を見ると、ぱちっと目があってしまった。
「あ、・・・」
気まずくなって目をそらし、建物の陰に身を隠した。
どうして、と少女は思った。
「杏を、見るんですか。」
彼だけを見ていればいいじゃないですか。
・・・また、杏がいけないんですか?
少女はその場に座り込んで、消え入りそうな声で呟いた。
「それでも、好きなんです。・・・・秋慈、さん。」