想像の小部屋

なんか色々まとめたり書いたり。

【オリヘタ】作品の評価点【ミアネル】

「・・・汚いな、0点。」

「相変わらず変な癖だなそれ。」

少女は青年に呆れた。二人の目の前に転がっているのは一人の女性の遺体。

死んでからそこまで時間がたっていないことから、この女性はついさっきまで恐怖に泣き叫んでいたのだろうと安易に予想ができる。

「0点にとどめているだけマシだと思ってくれ。マイナスをつけてもいいぐらいだ。」

そもそも素材がよくないと、青年は遺体を汚物を見るかのような目で見ていた。

隣で立っている少女は呆れた。ため息をついて言葉を発する。

「今回は武器の指定があった。鈍器でお前の望むような遺体はできねえよ」

そう言って手に持っていた血のついた陶磁器を青年に見せつけるようにちらつかす。

青年はひどく冷たい目で遺体を再び見る。

「・・・今回の”作品”は中々に不出来だ。黒歴史として残りそうなほどに、ね。」

踵を返して青年は歩き出す。

それが帰還の合図だと悟り少女もまた歩き出す。

 

殺した女性は「作品」とみなし点数をつける。

それが、殺し屋である青年―・・・ヨハン・ゲルストナーの変わった癖だった。

 

「んもう!貴女がついていながら何をしてるんですか!」

殺し屋の3人いるボスのうちの一人、テディ・ウィリアムスは任務から帰ったばかりの二人に説教をしていた。

「ヨハン君がいっつも馬鹿みたいに現場に長居するのが良くないからと珠里さんをついて行かせたのになんで二人そろって長居してるんです!?」

「仕方ねえだろこいつがただこねたんだ」

「誰がだだをこねたって?」

「お二人とも、言い残すことはそれだけですか?」

テディは笑顔で銃を手で弄ぶ。少女・・・桃月珠里とヨハンはそろって頭を下げた。

それでよし、とテディは続けた。

「とにかく、お説教はこれで終わりにしますけど気を付けてくださいね?」

説教が終わる、という言葉に露骨に顔を明るくした珠里は再び怒られていた。

そんな二人を横目にヨハンは自室へと戻り始めた。

 

廊下を歩きながら今回の作品について彼は考えた。

「・・・まず死に際のあの歪んだ顔がだめだ。やはり不意打ちで瞬殺するほうが美しく残る・・・それから鈍器なんてもってのほかだ。血は不浄だと思わないのか・・・」

ぶつぶつと独り言を吐き続ける彼は不気味だと称するにふさわしかった。

彼は異常だったのだ。

自室に到着し、鍵を開けて中に入る。そして再び鍵をかける。

潔癖症ではあるが自分のものが好きでもある彼の部屋はそれなりと物が多く散らかっていた。

壁には数々の作品の写真、棚にはファイルや薬品がつめこまれ、あちこちに自身の描いた絵画が飾られてある。

唯一すっきりとしているベッド部分にたどり着き身をシーツに鎮める。

邪魔になった眼鏡をベッドわきの棚に置いて目を閉じる。

ベッドの周囲にもまた彼の”作品"がたくさん飾られていた。彼は自身の作った作品に囲まれながら笑みをこぼす。

彼は求めているのだ。自身の納得のいく、満点・・・100点の作品を。

「ふふ・・、は、あはははは・・・っ!」

早く、早く彼がほしい。

ヨハンには心底惚れ込んでいる少年が居た。彼ならば、最高傑作のものが作れるだろう。と彼は考えていた。

自分自身以外で、唯一100点になりえる存在。

「・・・あ、っははは・・・!早く、早く欲しい・・・、早く早く早く・・・。」

彼だって喜ぶだろう。いちばん美しい状態で俺に保管されるのだ。

それが幸せだろうと彼は己惚れる。

そうやって笑い続ける彼は狂気に満ちた瞳で天井をただただ見つめていた。

天井。自らが死体を綺麗に保存する方法を見つけるためにやり続けた実験の記録が貼られている天井。

すでに何人かで試しているが、失敗例はない。

彼は100点の作品をそばに置いておけることが、何よりの至福だと信じて疑わなかったのだ。

 

「・・・それが、間違いだなんて思わずにだ。」

「ますます、狂ってますね」

「それを否定するつもりはないけどな。蘭を手にしてもきっと喜べない。」

「でしょうね。それに困ります」

「だから、だ。」

 

「・・・あいつはいつか、殺さなければいけない時が来るかもしれない。」