想像の小部屋

なんか色々まとめたり書いたり。

無人の館にご注意を #10

意志と思考の相違

Side.塔里

「はあ・・・っ、は、ぁ・・・っ」

荒い呼吸を整えながら俺は周りを見て人数を確認する。

1、2、3、4、5・・・よし。全員居る。

 

ちらり、と隣の少女を見やる。

こいつ・・・石水の言っていた”戦う”とは本当の事だったのかと。

先程の出来事を思い返して呆れた。

 

最初に秋月がこもっていた「子供部屋」に来る前。白いピアノの部屋でのことだ。

霧野が金庫を開き、ライターとドライバーを確認していた時に鬼は現れた。

「なっ・・・!?」

立ち位置からして俺たちと同じ、3階の寝室の穴から降りてきたのだろう。

俺が驚いている間にドアのすぎ傍に居た竜胆が鍵を開けて逃げるように促す。

霧野が秋月の手を引いてドアの方へと走り出したその瞬間

目の前を赤い影がよぎった。

 

ズドォン!

 

後から目で影を追えば、壁にぶつけられて起き上がりにくいらしい鬼と。

それをやったらしい、手にトンファーをした石水の姿。

誰しもが目を疑っていた。

いや、一度見たらしい竜胆はどうかわからなかったが、とりあえずその場の空気は固まっていたかに思えた。

 

「・・・さん、東さん!」

「え?」

後ろから霧野の声がしたかと思えば秋月を突然預けられた。

「実に続いて、逃げて!」

そう言い残して石水の方に走って行ってしまった。

「は!?え、おい・・・!」

言いたいことがたくさんあったがすでに石水のもとへ辿り着いてしまっていたのでぐっとこらえた。

秋月の手を引いて俺は走り出す。

「あ、東さ・・・」

不安に揺れる秋月の声は正直もって聞きたくなかったから、痛くない程度に強く握って安心させようと思った。

「東!秋月!こっちだ!」

竜胆の声が聞こえた方向へと視線を送ればとある部屋のドアを開けていた。

あそこに隠れるつもりなのだろう。

急いで転がり込めば、後ろから霧野と石水もついてきていた。

全員が入って鍵を閉めた後、緊張した空気の中足音は消えていった。

 

そして冒頭のシーンに至る。

戦うと言っていた言葉通り自身が立ち向かったあたり、消えるという話はあながち間違いではないのだろう。

一瞬だけ俺達に壁になってほしいだけかと疑ったことがあったのだが、杞憂だったようだ。彼女には、自ら戦う意思があるように見える。

本人の話だと鬼と対峙したのはこれが初めてではない。つまり体力が万全でない状況でこれだけの力があるのだ。それはかなり、精神的な負担を減らせることになる。

 

あいつのように、あいつの時のように人が死んでいくのを黙って見ているしかできないなんて状況を打破できるかもしれない。

 

Side.実

「・・・石水さん、鬼は、逃げれる限り逃げて戦いは最低限避けよう。今のところ貴方以外に戦える人は居ない。それに貴方の体力も無限じゃない。」

真がそう言った。おそらく自分達がどうやっても逃げれない状況になった時に石水が戦えなかったら困るからだろう。

俺としてもそれは困る・・・だろうか?どちらかと言うと積極的に戦って逃げる時間を作ってほしいような気もする。

「・・・ご、ごめんなさい、つい・・・。でも、鬼が、その・・・消えるのが命の消滅なんだとしたら、その・・・もしかしたら、たくさん鬼が居ることになるから・・・・」

そう、その可能性だ。

頭ではひどく冷静に物事を考えながら外面では周りの人と同じ、驚いたような顔をする。

どうにも石水杏という女性は人に情移りしやすいタイプに見える。

悲劇のヒロイン・・・とまではいかなくても、それなりに可哀想な被害者を演じつつ友人や恋人、家族なんかの話をすれば情けをかけてもらえるかもしれない。

相手には申し訳ない事だが、俺はこんな所で死ぬなんてごめんだ。

 

「・・・そ、そんな事ないっすよwwwあんなデカいのが何匹も居たらこの家つぶれますってwwwwwwwwwwだから大人しく逃げましょうよwwwwねwwww」

秋月が石水の肩をバシバシ叩きながら逃亡を促す。

まあ普通に考えりゃそっちのほうが賢い。でも、だ。

こんな状況で普通に考えてたら死ぬ。なるべく情は自分にだけ使え。

それが生き抜く術だ。恐らくはな。

そのためには壁も、盾も長い時間必要になる。

 

「・・・真、2階と3階はもう全部調べたけど、どうする?1階はどうだったんだ?」

できるかぎり急ぎたい。真に確認を取れば少し考え込んでから言った。

「階段の奥、東さんが何もないと言っていた所は何も見て無い。あとは秋月が逃げ込んだ風呂場も見て無いかな。他は全部見た」

秋月に確認を取れば風呂場はしっかりと調べたと言った。

観察眼はそう鈍くない奴だ、見逃しは殆ど無いだろう。そう思って次に東を見やる。

「お前は?どうだった?」

「あ・・・いや、俺達は特別調べこんだりしてないな。ざっくり見て回っただけだ。奥には鍵のかかった扉が一つと和室があった。」

「・・なら、そこを見に行こう。秋月、立てるね?」

秋月の大丈夫だという返事を聞いて俺たちは部屋を後にした。

最後尾を歩いていた俺は扉を閉めてゆっくりと歩き出す。

 

「ほんっと、老人に優しくない家だよな・・・」

「老人っていうか今のお前にだろ?w」

「まあな?てか笑ってんじゃねえよ・・・」

「しーっ・・・話すなら小声じゃないと変な子だって思われるぜ?」

「誰のせいだよ」