無人の館にご注意を #8
Side.杏
「えっと、霧野君・・・?」
さっき教えてもらった名前で呼んでみれば、少しだけ反応してもらえた。
どうにか話はしてくれそうで安心した。
先程の、風兎と呼ばれていた少年のように彼らも考えている可能性は捨てきれない。
だがこの状況ではそんな事を言っている場合じゃないのだ。
杏は、死ぬわけにはいかない。
彼と約束をしてきている。だから。
「・・・今は、軍とかそういうの・・・あの、考えてる場合じゃ、無いと思って・・・」
他人の協力がないと、困る。
「・・・無いと思って、それで?僕が石水さんを裏切るかもしれないからその可能性が怖い?」
図星をつかれて困惑する。
それでもごまかさずに頷けば、竜胆君が笑いながら言った。
「んな事しねえよ、石水の戦力は俺らも頼りにしてんだぜ?」
「・・・っえ、あ、ありがとう・・・ございます・・・」
戦力。ああ。そうだった。
武器を持つのは自分だけなのだと改めて肝に銘じる。
「石水さん、僕らにはもう一人ここに来た仲間がいるからその子を探したい。協力してくれる?」
「あ、はい・・・。もちろんです、秋月さん、ですか?」
先程からちらちらと聞く名前。
ずいぶんと2人に大事にされているようだった。口ぶりからして後輩だろうか?
赤軍にはないその関係が、ほんの少しうらやましかった。
「2階は鍵のかかっている部屋が多いです・・・。だから、居そうにないかと・・・」
「可能性は捨てきれない。秋月がカギを見付けて閉じこもっているかもしれない。」
霧野君は歩きはじめた。杏も、竜胆君も当然その後に続いた。
竜胆君は緊張をほぐそうとしているのか、様々な話をしてくれた。
彼の恋人の話、兄弟の話。友人との思い出。
あとは時折霧野君をからかって遊んでいた。
その光景が微笑ましくて、できることなら壊したくないと思った。
「ドア、開くか?」
「・・・開かない。秋月、中に居る?」
2階で、自分達がノックしていない最後のドアをたたく。
するとわずかながら中から反応があった。
少しの間をおいて、ドアが内側から開かれる。
そこにはセーラー服を着た少女が居た。
「せ、先輩・・・っ!良かった無事だったんすね!」
秋月さんだと思われる女の子が竜胆君に飛びつく。咄嗟のことにバランスを崩した竜胆君が床にしりもちをついた。
「いってえな・・!秋月大丈夫だったか?」
「痛かったすかwwwwすみませwwww心配あざますww」
先輩に会って安心したのか、秋月さんは笑顔で会話していた。
竜胆君が杏の説明をしてくれて、秋月さんも一緒に行動してくれるようだった。
「3階も見てきたっすけどなんもなかったすよwww壁にひっついてるだけのドアと鍵のかかった部屋だけっすww」
それとこれを拾った、とライターオイルと子供部屋の鍵を見せてもらった。
「鍵がかかってるところが気になるよな・・・鍵探さねえといけないか?」
そうやって4人で話していると、階段から東さんが上がってきた。
ずいぶんと、疲れたように見えた。
「ああ、鍵探してるのか?」
「ならここに一つあるぜ、やるよ」
「・・・というか、俺もお前らと行く。」
「一人、死んだ。」