無人の館にご注意を #4
白い青年は不安を覚える。
自分が死なない、全てを見ることしかできないという立場と心優しい少女の存在に。
自らの体を張って助けることができない。
その事実に。
焦げ色の救済
Side.実
「・・・くっそ・・なんだったんだよアレ・・・?」
真が音を確認しに行った直後だっただろうか?記憶が曖昧だが確かそうだったはずだ。あの鬼が現れたのは。
青い、大きな鬼だった。どうにも俺達を襲うようだったが・・・この館の噂はアレだったのか?
兎にも角にもマズい。逃げたときに秋月とはぐれてしまった。
俺は近かった階段を上がった目の前の部屋に逃げ込んだが秋月は1階の廊下を逃げたようだった。
どうしたものか、一人では中々に不便だ。
一人が心細いとかそういう事もあるが、問題はそこじゃない。
思考の幅が狭くなるし秋月が万一パニックでも起こしてみろ。不安だ。
真がうまく秋月と合流してくれればいいのだが。
何より―・・・
そこまで考えたところでドアノブがガチャガチャと動かされる音がした。
驚いて硬直していると、ドアに体当たりするような音に変わった。
まずい、マズいマズいマズい。
急がなければ、急いでどこかに隠れなければ、今自分が居るのは部屋なのだ、隠れるところぐらいいくらでもあるだろう。
恐怖で中々力の入らない体がじれったい。床を這うようにして隠れられそうな何かを探す。
混乱の中でようやくクローゼットを見付け、必死にそこまで・・・
ガタン!!!
「・・・っ!しまっ・・」
扉があいた、鬼が、見える。鬼が部屋に入ってきてしまう。
鬼の目は完全に俺を捕らえている。このままじゃきっと
「―食われる?」
恐怖で声が震える、早く逃げなければ、立ち上がらないといけない、早く、早く早く早く早く早く早く早く
鬼が足を一歩踏み出す。
「ひっ・・・・!」
思わず目を瞑る。強く瞼を閉じていれば、足音が聞こえる。
だから耳を塞ぐ。それでも聞こえてくる足音。怖い、このままでは死んでしまう。
落ち着け、逃げる方法を探せ、この状況から逃れる、方法を。
ずっと考え込んでいたような気がした。それは酷く長い時間の洋だったがそうじゃない。
そう錯覚したのは次に聞こえてくるであろう足音が聞こえなかったからだ。
代わりに聞こえたのは、衝撃音と少女の声。
「失せろよ、この・・ッ化け物!!!」
瞼を上げた先に見えたのはそう言って、トンファーで鬼をぶち飛ばす赤軍の少女の姿だった。
「え、えっと・・・あの、お怪我はありませんか・・・?」
鬼と対峙していた時の威勢はどこへやら、ずいぶんとおどおどした様子で赤軍の少女は声を掛けてきた。
「あ、いや・・・平気だけど」
今ので新しく負った傷はない。
「助かった、ありがとうな。」
そうやって笑いかけると相手はさらに焦って「いえ」だの「あの」だの言ってるあたりあんまり人と関わるのが得意ではないのかもしれない。
「お前、名前は?」
「い、石水杏っていいます・・・あ、赤軍の2年生なんです・・。」
「石水、な。俺は竜胆実。軍・・は言わなくてもわかるな?」
何せ今自分は制服を着ているのだ。いくら赤軍でも黒軍の制服ぐらい覚えているだろう。
相手が頷いたのを見て俺は話しを進める。
「俺、あと2人友達がこの館にいるはずなんだけどさ、見てねえ?」
「えっと・・・ごめんなさい、見てない・・・ですね。」
なら真はおそらく2階にあがってきていないだろう。この子がどういうルートでこの部屋に来たか知らないがここは階段の真正面だ、あがってきていたら見つけるだろう。
「石水はあの鬼について何か知ってるのか?」
「いえ、あの・・よくわからないです・・・。強いて言うなら攻撃が効いて、ある程度ダメージを与えたら突然消えることしか・・・。」
「じゃあ、鬼が居るって知っててここに来たわけじゃ無いんだな?」
「はい・・。杏は、兄が依然ここに肝試しに来てたって聞いたのでここに来たんです・・・。」
鬼は戦ったら消える。
原理はよくわからないが有益な情報を聞き出せたような気がした。
ならもう良いか。人と話して少し落ち着いた。
「わかった。じゃあ。」
そう言ってゆっくり立ち上がり歩きはじめる。と、石水に腕を掴まれた。
「?どうかしたか?」
「あ、ご、ごめんなさい・・・でも、あの、お友達・・が居るんですよね?」
どこか必死なその瞳に捕らえられて、なんとなく身動きがとりづらい。
友達がいるから、それがどうしたんだ?
「玄関、開かないんです、鬼も、たくさん居ます・・・!武器もない、完全なコンディションでも無いなら一人で探すのは危険・・・・だと思います」
「・・・それで、お前が一緒に行動してくれるって?」
そう聞くと相手は頷いた。
それでお前になんのメリットがあるんだよ、と言い返しかけたがこいつの戦闘力は、さっきのを見てる限り有益な物だ。
なら、適当友好的な態度で言いくるめてギリギリまで戦ってもらったほうが好都合だろう。なにせ俺はあの鬼と戦えるような装備はない。
向こうに嵌められるなんて、そんなミスは俺はしないと信じ込もう。
「・・・・わかった。ありがとう。頼りにしてるぜ」
「・・・はい。よろしくお願いしますね、竜胆君。」