想像の小部屋

なんか色々まとめたり書いたり。

無人の館にご注意を #3

赤い少女は息を荒げた。

それは異常なまでの汗だったが、それは体が火照っていたからなのかどうか判断がつかなかった。

どちらかというと、冷や汗と呼ばれる類なんじゃないか?

赤い少女は耳を澄ます。

・・・・聞こえる、これは。

「・・・・人間の足音。」

 

 灰色の音と

Side.塔里

・・・最悪だ、付き合うんじゃなかった。

俺はそう後悔した。同級生で、子供だからと変な世話を焼くんじゃなかった。

「なあ、もう帰ろうぜ・・・?」

彼の弟―・・・風兎と一緒に黒軍の3人をつけてきたのだ。そして何故か、その3人と同じように俺達まで肝試しなんてロクでもないものをする羽目になった。

帰りたいと弱音を吐くと風兎は意地悪に、そして面白そうに言う。

「え?やだよ、塔里さん面白いもん」

・・・このサディストめ。

きっと俺が怪談が嫌いな事を知ったうえでの行動だ。なんということだろうか。

そもそもこんな館、さっさと取り壊してしまえば良いものを。

 「そもそも僕は最初についてこなくていいって言ったでしょ?それについてきた貴女の責任だね」

「う、そ、それでもだなあ・・・!」

やっぱりこの子は苦手かも知れない・・・。なんていうか頭が良い。

まあ嫌いではないのだが。

「で、でもとりあえず帰ろう?な!」

そうやって説得しようとしたが全く耳に入れてもらえなかった。

玄関からまっすぐ前に進んだ奥、開かない扉や和室があったが特別何もなかった。

そして風兎は悠々と振り返って階段に向かい始めた。

この様子だと他のところも全部回る気なのだろう・・・・。

憂鬱でしかない。早く飽きてくれるといいのだが。

 「うわっ!」

そんなことを考えていたら立ち止まっていたらしい風兎とぶつかった。

「何してんだよ・・・!急に立ち止まったり、し、て・・・。」

視界の先に、黒軍の少年がうつった。何故かは知らないが一人だ。はぐれたのか?

無表情でこちらを見る表情からはその真意がイマイチ伝わってこなかった。

「誰、名乗れよ。」

風兎がそう言う。口調が荒いとか随分上から目線だなとか色々言いたかったがそんな事言う空気じゃない。

「・・・名乗らせるなら、名乗るのが常識・・・。だけど、その年に免じて許してあげる。僕は霧野真。」

「意外とあっさり名乗るんだね、子供だからって安心してない?」

「してない。後ろに居る人は高校生だしお前も白軍の制服を着てるから」

「じゃあ、お前は名乗った所で何の不利もないほどショボいの?」

「不利はない。だってここは戦場じゃないから。」

 待て待て。話が進むのが早い。

なんでここまでこの二人危険な空気醸し出してるんだ?

ああ、敵軍だからか。いや待て。

「ほ、ほら風兎!こんなトコでまで変な張り合いしてんなよ!お前もごめんな、えっとー・・・・霧野?か?」

適当に笑顔を作ろってそう言うと、霧野はその表情を変えずにこういった。

「別に。ねえ、僕以外に黒軍は見て無い?」

黒軍?ああ、はぐれた友達のことかと解釈し見ていないと答えたら納得したようで俺達に背を向けて離れて行って・・・・

霧野が向かった玄関の方、暗闇で見えなくなっている所からすさまじい音がした。

「!?な、何・・・ッ!?」

俺が驚きを形にする前に、風兎が声にした。

あんな音、普通じゃ起きない。何か、何かと。

 

大きな何かと、命を懸けて戦っているような。

そんな規模の音なんて。

 

「・・・っ、霧野!!」

俺は夢中でそっちに駈け出した。わからない恐怖がこみ上げてどうにかなるかと思った。

後ろから風兎の声が聞こえたような気がしたが、なんといっていただろうか?

なんにせよ、俺の思考はそこで見た光景によって止められていたのだから、理解なんてできるはずもなかった。

 

Side.真

・・・なんだ、この、大きな、青い、

体が震えないのは神が残した情けだろうか。僕を捕食対象として見ているらしいその鬼はギラついた目で手を伸ばしてくる。

今は武器を持ち合わせていない、早く逃げなければいけない。

どこへ?引き返すか?

いや白軍の二人が居る。邪魔だ。

玄関へ?無理だ。鬼が立ちはだかっている。

「・・・・積んだ?」

なんだこの状況は、僕に死ねと言ってるのか。

いやもしやこの鬼は握手を求めていたり・・・・

「っなわけないよねうん知ってた」

鬼は完全に今僕を掴もうとした。食われる、つぶされる。

思考の末の結論じゃない。本能だ。本能が告げている。

「霧野!!」

さっきの女・・・いや男?が名前を呼ぶ。

なぜ呼ばれたかはさっぱりわからなかったが自分以外の存在を知らせる声は、僕に冷静さを与えてくれた。

観察しろ、考えろ。打開策はあるはず。

「・・・奥に、道は」

駆け寄ってきて怯えているのか、硬直してしまった白軍の子供に声を掛ける。

「・・・へ?あ、僕?み、道はない・・・っ、けど・・・」

「けど?」

もし何かあるなら早く言ってくれ。間に合わなければ死ぬか化け物の股下を必死に潜り抜けるしかない。

「か、隠れられそうな場所なら!あった!」

隠れる?

 

そうか、その手があった。

 

「どこ」

「あっち!」

3人も同時に隠れられるのだろうか、もそうでなければ、隠れる人数は何人だ?

あぶれる人が隠れ場所に無理に入って来ようとしたりすれば、場所だってバレる。

けれど争っている時間はない。

走りながら僕は考える。それなら、と。

それならこの軽そうな子供を化け物の方に放り投げたほうが良いかもしれない。

もう一人の白軍の男は人がよさそうだから馬鹿みたいに助けに行くかも。

僕の隠れ場所も安定して確保できる。

「ほら、これ!!」

子供が開いたのはクローゼットの扉だった。

やたらと大きい。これなら3人でも入れるかもしれない。

「わかった、風兎、早く入れ!」

白軍の男がそう言うと僕の首にカッターを向けた。

「いいか、クローゼットの中で変な事してみろ・・・お前も仲間の命もないからな・・・!」

・・・なるほど、やはりそこは学生兵ということか。しっかりしている。

僕は黙ってうなずいて、先に白軍を入らせて最後に入り、扉を閉めた。

 

ドスン ドスン

 

大きな、ゆっくりな、足音が聞こえる。

あの化け物の物であると脳が勝手な理解を進める。

 

ドスン

 

立ち止まる。

そんな音が聞こえる。

 

 ドスン ドスン

 

少しずつ小さくなる音。

遠ざかっていく音だと脳が認識する。

 

「・・・もう、大丈夫。出よう。」

 

開けた視界には、化け物の影や形はなかった。