想像の小部屋

なんか色々まとめたり書いたり。

先輩後輩

「先輩って、今までその…、手にかけた?、人とかって覚えてるんすか。」

不意に彼女がそう問いかけてきた。

いつもこんな僕にもよく笑いかけてくれて、しっかりコミュニケーションをとってくれる彼女は、今日は頭に包帯を巻いている。

戦や訓練でできた傷ではないと思う、なにせ今日は月曜日で、金曜日にその傷はなかった。

珍しく彼女が静かで、元気がなさそうで、こんな話題を持ちかけてくるというのに、きっと影響しているのだろうと思った。

「……覚えてない、人の方が多い。」

「覚えてる人もいるんですか?」

「……うん、強かった人、とか。」

素直に答えると彼女はまた顔を伏せてしまう。僕は彼女を悲しませるような返事をしてしまったらしい。

「……私、人を殺せないんです。」

「……。」

そんなこと知っている。

「だから真先輩に真っ先に見捨てられても仕方ないなって思ってたんです。」

「……うん。」

確かに僕は、戦えなくなった負傷兵を彼女の目の前で見捨ててきた。

「私は、」

 

「私は、出来損ないですか、真先輩。」

 

そんなこと。

 

「……。軍人としては、……そうかもしれない。」

知っている、そんなこと。僕も彼女も、よく知っている。

「…たぶん、秋月だからって、特別扱いして……助けたりとか、しないと思う。」

彼女が僕を見る。不安そうな顔だなと思った。珍しい顔だとも思った。

「……でも、それは、戦場での話。」

あまり、そんな顔を見たくないと、僕は思った。

「……ここは、戦場じゃないから。…秋月だから、僕は……力になりたい、から。…どうして悲しいのか、教えて。」

彼女は甘え下手だと前に実が言っていた。

だから僕が甘やかすのは難しいかもしれない。

それでも、僕は、この子の先輩だから。

この子が寂しくないように、傍にいてあげられたら、と。

そう思う。

 

 「…ふふ、真先輩がなんか先輩っぽい。」

彼女の微笑みが、僕は割とすきだった。

あの夏 この夏

蝉がうたっている。生涯で1度きり、輝かしい夏に恋人を探して歌っている。強い日差しをうけてより美しい青々と茂った木々とアスファルトの熱に揺れる空気。真っ青な空に眩しいくらい白い雲。
ぼくは夏がすきだ。夏だけじゃなくて、四季折々の風景はぜんぶだいすきだ。
だけど、夏は少しだけ困ってしまうこともある。今もそうだ。どれだけ気をつけてもこうなってしまうことはある。
呼吸が少し浅い、手足が痺れている。辛うじて残っていた意識も今にも手放しそうだ。
わかっている、これではいけない。涼しい場所に移動しなくてはならない。けれど、
ああ、同じく少し暑そうな服装の君が、この都会では珍しい虫と遊んでいるのが見える。昔の面影を感じさせる君など、見たのはいつぶりだろうか。
夏。
「おい、貴様…」
後ろから誰かに声をかけられたのと同時に最後に残っていた意識が途絶えた。
僕の肌を手と顔以外なるべく露出させない服装は、夏にはとてもじゃないが適していない。……知っていたことだった。

「……目を覚ましたか。僕がわかるか?」
冷房のよく利いた、清潔な部屋だった。僕が意識を取り戻したのは保健室。僕の目の前にいたのは……確か、君のお気に入りの子だったよね?
「うん、ありがとう」
「何がありがとうだ、馬鹿者。こんな気温の日にそんな格好で炎天下に座り込んでぼーっとしているやつなんていないぞ。」
「そうだよね。」
えへへ、と誤魔化し笑いをする。兎上由紀。彼は……確か、保健委員ではなかった気がするが。医療の心得があるんだっけ?
ふと、自分の服装が異なっていることに気づいた。いつもはしっかり隠れている腕や首元が涼しい無機質な空気に晒されている。
いつまでも色濃く消えない、火傷跡たちも。
「……君が着替えさせてくれたの?」
「そうだが?」
「そう……ごめん。」
自分はとうに見慣れてしまったこの、斑に色が違う体は他人が見たら気持ちのいいものではないだろうとは容易に想像がつく。苦手な人には特に。
だから、というだけではないが、やはりだからこそ熱中症のリスクを背負いながらこんな服装を続けていた。
それに、小太郎にこれを見られるのは何故かいけない気がしていたから。
「……何を謝っているのか知らんが、長袖を着るにしてももっと素材を選ぶことだな。
おい、目が覚めたぞ。貴様は具合が悪くないのだから寝るな。」
ええ?とのんびりした声がカーテンの向こうから聞こえた。君の、声。
「だって涼しいんだもん ついてきてあげたんだから、これはご褒美かなあって。」
「馬鹿言うな、貴様手伝いなどしなかったろう。」
「無慈悲だねえ。」
君の、つくりものの黄色い瞳にぼくが映った。するりと細められたその目。
「すごい怪我のあとだねえ。」
ああ、アラームが叫んでいる。
「火傷お?いつの?」
彼の瞳が、ぼくを狙っている。スナイパーみたいに、スパイみたいに。
「………ずっと、昔の。」
ぼくは嘘をつくのは得意なほうじゃない。
だから君に嘘はつけない、つく理由もないけれど。
だけれど、ああ、良いのだろうか。君のすっぽり抜けた記憶に干渉するのは。
「……へえ。」
ますます君の目はするどくつめたくなる。かなしいことだ、きみにそんな目で見られるのは。
「まあ、お大事にねえ。あとはよろしく、由紀くん!」
「は?貴様の知り合いだろう。」
「僕このあと予定があるんだあ。」
けれど、同時に今日は少しだけ幸せ。
だってね、小太郎。
「お見舞いしてくれてありがとう、小太郎。またね!」
きみが少しでもぼくの傍に居てくれたのならそれで、嬉しいなって思えるよ。お兄ちゃん。

美的センスと恋心

綺麗だなと思った。
俺には音楽も美術もよくわからないから、なにがどう美しいとかそういう難しいことは言えないけど、ただひたすら、目を奪われていた。
少し伏せられた目とか、それでわかる長いまつげとか、風に揺れる髪とか。繊細に弦に触れる指とか、どこを見ても虜になるくらい俺に聞かせるために音楽を奏でる彼は愛おしく見える。
彼の音色よりも彼自身にばかり注目していることがばれたら、きっと彼は怒るだろうけど、俺が彼自身を見てどんなふうに考えているかなんてきっと伝わることはない。
…伝える、こともない。かもしれない。
「…聞いてんのかよ、慎耶。」
バイオリンを肩からおろしながらそう話しかけてきた彼の視線が俺を捕らえる。
窓から切り抜かれた夕焼けが彼の背後にあって、まるで彼をモデルにとった一枚の絵画のようだった。
ああ、知っていたけれど、やっぱり適わない。

綺麗だと思った。どうしようもなく、彼を―優一のことを、愛してしまったんだなと思った。

「おい、慎耶?」
「うん?」
「な、なんだよその顔…どうだった?演奏。」
「うーん…。」

「綺麗だったぜ!また俺に聞かせてくれよな!」

それぞれ呼ぶよ

結奈

 

◇実→実先輩

◇真→真先輩

◇菊哉→鮫島

塔里→東さん

風兎→風兎くん

夢兎→幽霊さん

美春→八島さん

花香→根室さん

杏→石水さん

由紀→兎上さん

小太郎→実先輩の従兄弟さん

恋→恋くん

 

 

◇結奈→秋月

◇真→真

◇菊哉→鮫島

塔里→東さん

風兎→風兎くん

夢兎→白軍の幽霊

美春→八島さん

花香→根室さん

杏→石水さん

由紀→兎上

◇小太郎→小太郎

恋→恋くん

 

◇結奈→秋月

◇実→実

◇菊哉→鮫島

塔里→東さん

風兎→玉之屋

(◇)夢兎→玉之屋

(◇)美春→八島さん

花香→花香ちゃん

杏→石水さん

由紀→兎上

小太郎→小太郎さん

恋→桜坂

 

菊哉(その時々にもよる)

◇結奈→まな板女

◇実→竜胆先輩

◇真→マフラー野郎

塔里→チビ

風兎→ガキ

夢兎→幽霊

美春→猫目

花香→ブス

◇杏→杏

由紀→坊ちゃん

小太郎→オカマ

恋→チビ

 

塔里

結奈→秋月

実→竜胆

真→霧野

菊哉→鮫島

◇風兎→風兎

◇夢兎→夢兎

◇美春→八島

◇花香→根室

杏→石水

◇由紀→由紀

小太郎→若林

恋→桜坂

 

風兎

結奈→秋月さん

実→竜胆さん

真→霧野さん

菊哉→鮫島さん

◇塔里→塔里さん

◇夢兎→夢兄

◇美春→美春

◇花香→根室さん

杏→石水さん

由紀→兎上さん

小太郎→若林さん

恋→桜坂

 

夢兎

結奈→結奈ちゃん

実→竜胆くん

◇真→霧野くん

菊哉→鮫島くん

◇塔里→りーちゃん

◇風兎→風兎

◇美春→美春

◇花香→花香ちゃん

杏→杏ちゃん

由紀→兎上くん

小太郎→若林くん

恋→恋くん

 

美春

結奈→秋月さん

実→竜胆くん

◇真→霧野くん

菊哉→鮫島くん

◇塔里→塔里くん

◇風兎→風兎くん

◇夢兎→夢兎

◇花香→根室さん

杏→石水さん

由紀→兎上くん

小太郎→若葉くん

恋→桜坂くん

 

花香

結奈→秋月さん

実→竜胆くん

◇真→真

菊哉→鮫島くん

◇塔里→東先輩

◇風兎→風兎くん

◇夢兎→お化けさん

◇美春→八島先輩

杏→石水さん

由紀→兎上くん

小太郎→若林さん

恋→桜坂くん

 

結奈→秋月さん

実→竜胆くん

真→霧野くん

◇菊哉→菊哉くん

塔里→東さん

風兎→風兎くん

夢兎→お化け

美春→八島さん

花香→根室さん

◇由紀→兎上由紀 兎上くん

◇小太郎→若林先輩

◇恋→恋くん

 

由紀

結奈→秋月

◇実→竜胆

真→霧野

菊哉→鮫島

◇塔里→塔里

風兎→玉之屋

夢兎→玉之屋

美春→八島

花香→根室

◇杏→石水

◇小太郎→若林

◇恋→桜坂

 

小太郎

結奈→結奈ちゃん

◇実→実

真→真くん

◇菊哉→菊哉くん

塔里→塔里

風兎→風兎くん

夢兎→幽霊さん

美春→美春

花香→花香ちゃん

◇杏→杏ちゃん

◇由紀→由紀くん

◇恋→恋くん

 

 

結奈→結奈

実→実

真→真

菊哉→菊哉

塔里→塔里

風兎→風兎

夢兎→夢兎

美春→美春

花香→花香

◇杏→杏

◇由紀→由紀

◇小太郎→小太郎

 

雪を想う春のこころ

愛される、ということについては人の中でもよく考えていた方だと思う。

愛されているという状態は意外と定義が曖昧だ。それは、愛の形が人によって異なり、しかしそれでも愛なのだと認められていることに起因しているに違いない。

例を挙げるならまず第一に俺の母だ。

彼女は俺を愛しているとよく言った。その言葉と彼女の行動を結びつけると、彼女の愛とは才能がある人間にのみ向けられるもので且つその才能を伸ばすことに尽力することになる。

つまりだ、天才ならば俺じゃなくてもいい。そこに親子の絆であるとか、唯一無二の息子であるという事実は反映されない。

確かにあれも愛だと思う。けれど、俺はなんとなくあの人から注がれる愛が好きじゃなかった。学校の先生なんかにも、同じようにこの才能は愛されたけれど、例えばあの子のように明るいから、一緒にいると楽しいからなんて 俺だからこそと個人として愛されることはなかった。

 

ただそのぶん、出来ることを褒められたり期待されることには慣れていた。

自分の持っている才能を愛されることならば、ある程度当然だと思っていた節があったのだと思う。

誰かが俺に対していい顔をするということは、イコール俺の才能を愛しているのだという方程式が出来上がるくらいには。

あまりにも俺個人を愛してくれる人に出会わなかったから、すっかり諦めていたのかもしれない。

 

だから驚いた。

君が俺を  俺の性格だとか振る舞いを愛してくれたことが。

言われてから気づいたけれどどれも幼い頃から欲しかった言葉だった。

優しい所が好きだよ、いつも頑張ってるな、とか。胸が締め付けられるとはよく表現したものだ。愛されるってこういうことなのかもしれないと思った。

 

君には話したいことが本当はいっぱいある。

知ってほしいことも、言いたいわがままも君について知りたいことも沢山、それはたくさんだ。

でも今1番知ってほしいことを選ぶなら、俺がどれくらい君に感謝してるかになるのかも。

優しくしてくれたこと、笑いかけてくれること、好きにならせてくれたこと。……愛してくれたこと。

君が初めて恋をしてくれたこと、ほんとに嬉しかったんだ。何もかも不慣れでぎこちなくて、でも一生懸命俺のこと愛そうとしてくれる、そんな姿が 意地悪かもしれないけれど嬉しくて仕方がない。

本当は俺も初恋なんだよって教えたら君も喜ぶかな。君がたくさんのはじめてを俺にくれたように、君は気付いてないかもしれないけど俺もたくさんのはじめてを捧げてるんだよ。

 

だからね。

 

いっぱい愛してね。

君が俺と幸せでいられる間だけでいいから、今だけは、

君が好きだと伝えることを、君の幸せにさせてね。

 

月の宮殿ー導入

 

軽快なジャズミュージックが聞こえる。ずいぶんお洒落だ、ジャズは専門外だから詳しくないけれど、有名な歌なのだろう。

「……さん、お客さん。」

男の声だ、お客さんって……俺のこと?あれ、俺今どこにいるんだっけ。

底に沈んでいた意識がようやく浮上し始め、ふと目を開いた時に自分が眠っていたことに気づいた。視界に映るのは、洒落たバーといった雰囲気の内装と酒が並んだ棚、そして自分が突っ伏して寝ていたらしいカウンターと……俺を起こしてくれたバーテンの男。

「ああ、ようやくお目覚めになられましたか。こちらはお通しでございます。お酒を用意する間にどうぞ。」

そう言って俺の前に1枚の紙が入ったグラスを置いた。

「え、いや……ちょっと待って、ここは……」

バーテンの男を引き留めようとして、彼が俺の隣に座っている男を起こそうとしているのに気づいた。改めて見てみるとこのカウンターに男性…いや、青年?が3人、ソファー席で青年がまた一人、そして少女も寝ていた。

どういうことだろう、俺はこんな所へ来た記憶はない。ここに来る直前の記憶も…曖昧になっている。ここに寝ている彼らも同じ状況なのか?そもそもここはどこなんだろう、疑問点が次々と浮かんでくる。

目の前に置かれたグラスに目を戻した。

透明のグラスに入った1枚の、折りたたまれたメモ。なにか、これに現状のヒントでもあるというのだろうか。

考えていても仕方ない、ようやく手を動かして俺はメモを手に取った。紙を広げそこに書かれた文章を

「なんだお前どこだよココ、ふざけんな説明しろ!!」

……読もうとした時に、隣で起床した青年が派手に椅子を蹴飛ばしてバーテンの男に掴みかかった。

呆気に取られている間も、今までに聞いたことがないような罵詈雑言を吐いてバーテンに詰め寄っている。

「俺をここに連れてきたのはお前か!?さっさと答えろノロマ!!」

「ま、まあ落ち着いて!」

「ああ!?」

慌てて止めに入ると彼はこちらを睨んだ。

顔を真ん中で分断するように大きな縫い跡が残っている、髪をあげてマスクをするその大柄な彼はざっと俺を上から下まで見ると、舌打ちしてバーテンを突き飛ばした。

バーテンは可哀想にも背中を棚にぶつけたようでずいぶん痛がっていた。

「お前誰だよ、この店の人間じゃねえな?答えろ、状況は把握してんのか。」

「え? いや…、俺は 」

この人もきっと俺と状況が同じだ、そう判断して説明しようとした時、間延びした一人の男性の声にそれは遮られてしまった。

「もう騒ぎ終わったあ?じゃあ僕らも話に入れてくれる?」

声の主はカウンターに寝ていたうちの1人の、髪の長い男性のものだった。彼はいつの間にかソファー席に移動していて、そこで寝ていた2人も目を覚ましたらしい。

「きっと君たちと僕らは同じ状況に置かれてると思うんだよねえ。だから、いいでしょお?」

にまりと笑った彼に少しの不気味さを覚えた。しかし、彼の言葉を鵜呑みにするならだが、彼らもまた気付かぬうちにここに連れてこられたらしい。

それなら、疑問を共有する方がいいだろう。

椅子から立ち上がって、マスクの青年に君も行こうと話しかけ、彼らの元へ向かう。

「……おい、そこで寝ている奴は違うのか。」

ソファーに座っている青年がそう言った。

何を言っているのかわからなくてカウンター席に目を戻せば、なんと俺の2つ隣……つまりマスクの青年の隣、バーテンと彼が騒いでいた真隣の席では、まだ眠り続けている一人の青年がいた。

「あ?……てめえ起きろノロマ。」

そう言われて乱暴に殴り起こされると、何もわかっていなさそうな顔をしたままマスクの青年にソファー席まで引っ張られていた。

……知り合いだろうか? よくわからないが、マスクの彼が俗にいう不良だと言うことだけは確信した。

 

 

「……つまり、誰もここがどこだかわからない、何故ここにいるのかもわからない、ということだな?」

軽く状況を説明しあった所で出た結論はそれだった。全員がまるで同じ、ここに来る直前の記憶があやふやだと言う。

バーテンの男に質問してみても、彼も場所はわからないし、出口もわからないのだと当然のように言うから薄気味悪くなってしまった。

「……仕方がない、ここに来ることが出来たのだから出ることは出来るだろう。どうやって出るかは、自分で探すしかないようだな。」

ため息を吐いて先程からまとめ役をしてくれている薄紫の髪の青年が言った。

隣に座っている少女がずっと不満そうに彼を見ているのがとても気になる。あの二人も知り合いなのだろう。

「俺もそう思うよ、全員状況が同じなら協力して探す方がいいよね。誘拐とは…考えにくい状況だけど、危険もあるかもしれない。」

俺がそう発言しても、反論してくる人は居なかった。ある程度全員が考慮していたことだったからだろう。

何より、こんなわけのわからない状況で一人で居るのは心細い。

「じゃあ自己紹介が必要だねえ。

僕は若林小太郎、そっちの2人と知り合いなんだあ、よろしくねえ。」

「僕は兎上由紀だ。若林が言った通り、こいつと横に座っている石水とは知り合いだ。よろしく頼む。」

髪の長い青年と、薄紫の髪の青年と少女はどうやら知り合いらしかった。だから3人でソファー席に座っていたのだろう。次に自己紹介を促された少女は、そういった事が苦手なのか俯いて小声で話す。

「あ、えっと、……い、石水、杏です……。この2人と、あ、あの……久しぶりだね、菊哉くん。」

「あ?そうだな、お前もっとシャキシャキ喋れよ。……俺は鮫島菊哉だ。」

彼女はマスクの青年と知り合いだったらしい。マスクの青年……鮫島くんはあまり話したくないのか、名前以外に情報はくれなかった。

「………。」

「……おい、お前だろうがノロマ。」

「……? …僕も、自己紹介するの?」

「当たり前だろうが。」

「…わかった。僕は、霧野真。…鮫島の、先輩…。」

最後まで寝ていた彼は寝ていなくとも鈍いのか、時間をかけて簡潔な自己紹介をした。

先輩、ということだが彼らはなにに所属しているのだろう、高校か大学といった感じだろうか。

「俺は八島美春、ここには…俺の知り合いは居ないけど、よろしくね。」

最後に俺がそう言って笑うと、そのタイミングを見計らってか、バーテンの男がテーブルにグラスを運んできた。

「お通しでございます。お酒を用意する間にどうぞ。」

俺以外の全員の前に、俺と同じメモ入りのグラスを置いた。各々がグラスに視線を注ぐ。

「それでは、ごゆっくり。」

「おい、待て。」

そそくさとカウンターに戻ろうとするバーテンを兎上くんが引き止める。

「僕らは…少なくとも僕とこの二人は未成年だ。酒の用意は必要ない。」

「わ、真面目だねえ。」

「黙っていろ!」

言われてみればそうだった、お酒の用意をする間に、と言われても、まだ未成年で学生の俺にお酒を出されても困る。

「俺も、お酒はまだ飲めないからいいよ。」

「……僕も、あと、鮫島も。」

「あ?」

「……だめ。」

個人的に飲んだことがあるかは別として、ここに居るのは全員未成年らしかった。

しかし、バーテンの男は営業スマイルを崩さずに言う。

「ご安心ください。ここでは何をしようと罪になりませんから。」

そして、バーテンはまたカウンターの向こうへ戻り、グラスを拭き始めた。

……なんとなく、空気が2度くらい下がったように感じた。

「……ふうん、このメモ、ヒントかもねえ。」

一足先にメモを開いたらしい若林くんが発言した。そしてメモを全員に開示する。

 

『当店ではドレスコードが絶対となります。もし違反を見つけた場合、相応の処理をさせていただきます。』

 

パソコンで印刷されたような文字で綴られていた内容はそんなものだった。

ドレスコード。学生の場合は大抵が制服だが……生憎、今は私服を着ているようだ。ほかの全員を見ても、私服を着ている。

「……でも、あのバーテンの人何も言わなくないですか…?」

石水さんが控えめにそう言う。確かに、絶対という割には彼は俺たちの服装を指摘しなかった。

「さあねえ、でも、連れてこられただけの僕らに服装を整えろなんて無茶だってことわかってるだけかも?後で聞いてみようかあ。

君たちのメモは?」

そういえば、俺もメモを開いていない。すっかり忘れていた。慌ててポケットに入れたせいでくしゃくしゃになってしまっている。

「杏のメモは……『当店ではお客様のお好みでご自由にお飲み物を作っていただく、セルフサービスとなっております。店にあるものはどれでも、お客様の好みに合わせてお作り下さい。』ですね…。」

「俺のは『鏡がうつすものは真と対象、すなわち虚像でありながらそれは真としての姿である。』……意味わかんねえ。」

「僕のものは『正しく見極めること、そして歪みをも寵愛せよ。』だな。若林と石水のメモは確かにヒントだろうが…僕と鮫島のものはまだわからないな。」

「君のはあ?」

「……。僕のも、関係ないと思う……。なんか、僕のことについて、書いてた。」

「また訳の分からない……困りましたね。」

「お前はどうだ、一人だけグラスを置かれていなかったが、先に起きて貰っていたのか?」

「ああ、うん…えっと。」

ようやく紙を開いて、そこに並んだ文字を見た瞬間ぞわりと寒気がした。

 

『貴方は殺された。大切な親友を殺された。』

 

殺された、大切な親友を。

貴方は 殺された。

その文章が頭の中を駆け巡って、そして不意に記憶がフラッシュバックする。

梅雨独特の湿った風と恐ろしい鉄の匂いと、大きく振り上げられた鎌と、左腕の痛み、そして、そして。

 

「…ねえ、大丈夫?」

声をかけられてはっとした、呼吸が少し浅い。全員が俺のメモの内容を聞こうとこちらを見ている。まだまとわりつくあの時の記憶と被りかけるのをどうにか追い払って俺は笑ってみせた。

「大丈夫。俺のメモも霧野くんと同じだったよ。関係なさそう。」

関係が本当になかったとしたら、あまりにも悪趣味で残酷だ、とは思った。

床に敷かれたカーペットの赤色すら、視界に入れるのを躊躇ってしまった。

 

 

意外と繊細

その違和感を感じたのは1回目じゃない。

反射的に、とは皮肉なものでそこにある意図だとか、その人が向けていた感情だとか、そういったものは関係ないらしい。小難しく話されてしまったので、正しく理解しているかは若干不安だが、確か実先輩がそんなことを言っていた気がする。

「よう鮫島ぁ!今日は珍しく1時間目から居るじゃーん、いえーい!ww」

そこに悪意なんて微塵もなくて、ただよりフレンドリーにと思っただけだ。

明るく話しかけた方が、ちょっとくらいアクションを起こした方がいいと思っただけ。

 

「ッ、朝っぱらからうるせえよまな板女。」

 

見向きもせず払いのけられると思ったハイタッチに、彼が一瞬こちらを警戒したような。一瞬この手にその視線が釘づけにされていたような。

本当に一瞬だったけど、確信した。というか、前例より隠すのが下手くそだ。

 

鮫島菊哉には、過去習慣的に暴力を振るわれていたことがある。

 

 

「真先輩ってまだハイタッチとか怖いんすか?」

「…?どうして?」

「いやー…。まあ。」

前例というのが、私の所属する隊の隊長である先輩……霧野真だった。

ずっと前に、あれは……確か先生に真先輩と訓練していたのを褒められた時だっただろうか。喜んで私は真先輩にハイタッチしに行ったのだが、彼はそれにほんの僅かな怯えを見せ、なんと私のハイタッチから一歩身を引いた。

ハイタッチに慣れていないのかなとか、この人マジでコミュ障だ…とは思ったがその怯えは危うく見逃すところだった。

後から実先輩に、なんか真先輩にハイタッチ避けられるんすよねー悲しいわーしかもあの人ちょっと怯えてた気がするんすよねーコミュ障キめすぎでしょーなんて話したところ、これからは注意するように、と説明をうけたのだった。

そんなこと軽々しく私に教えて良いのか、という疑問に関しては実先輩に私は信用されているとの返答だった。正直怪しい。

 

鮫島がとった反応は真先輩と違って警戒、怒りだった。…正直殺意を向けられたといっても過言ではなかったとあの時の目つきを思い出せば言えるだろう。

 いったいどういう壮絶な過去をたどってきたのだろう、私の周囲の人は。確か実先輩も弟妹の面倒を見ているという話だ。

軍学校ならそんなものだろうか…正直私には理解も想像もできない。

真先輩は親だった。鮫島も…親?

だとしたら、誰に愛されてきたのだろう。月先輩や和希ちゃんだろうか。

身内には?

 

「鮫島ー!!やっほー!」

「んだよ、うるせえ女だな。」

「なんだよwwwww」

 

低い位置で手を振ってあげるこれも一応愛なんだけれど、

彼に伝わっているだろうか。

 

伝わらないかもな、お馬鹿さん